2018年2月28日水曜日

迷宮・新宿駅

12日で東京に行きました。2月大歌舞伎の千秋楽を見るのが目当てでした。高麗屋三代同時襲名披露では松本金太郎改め市川染五郎の初々しい口上には親でもないのにとても誇らしい気分に。将来の看板役者の門出に立ち会え大満足でした。ところが翌日帰岡しようとして……
学生時代の4年半を東京で過ごしたので、とりわけ新宿駅界隈は学生時代に培った土地勘が働くと思ってきたのに、今回はあの迷宮新宿駅で立ち往生してしまいました。東京での用事もすべて終わり、さあ岡山へ帰ろう、と紀伊国屋本店を出ながら迷いました。羽田からシニア料金でJALANAで帰るか、割高だけれど無難な新幹線にするか悩み、とりあえずは羽田空港までバスで移動しようと思いました。
ところが新宿駅東口から西口に行くことができません。JRや小田急、京王線の入り口はあるけれど東西連絡通路は発見できませんでした。そこで西口の空港バス乗り場でなく、南口甲州街道を越えたところにある総合バスターミナル、バスタに向かいました。ところが地上4階にあるバス発着場にすんなりいけません。たったふたつしかない遅いエレベータでともかくターミナルにたどりつき乗るべきバスを探しました。空港バスなんてしょっちゅう出ていて乗ってから運賃を払えばいいと思ったのですが、これが大違い。窓口に並んで切符を買うか自販機で買うめんどくささ。自販機を操作したら空席が3便後(約1時間)までSold out
「やってられない! やはり新幹線にしよう」。バスタからJR新宿駅へまた遅いエレベータでいらいら移動。JRの券売機で岡山まで自由席切符を買いました。最終の岡山行きに乗ればいいのでとりあえず新幹線の時刻表をもらっておこうと思い、JRの窓口係員にお願いしました。
-新幹線時刻表をください-
-どの新幹線ですか?-
-東海道・山陽です-
-ここはJR東日本の駅です。東海道・山陽新幹線の時刻表はありません。東京駅で言ってください-

発狂しそうでした。券売機ではちゃんと東海道新幹線の切符が買えたじゃないか(怒)。迷路でしかない歪んだ立体空間の駅、なわばり意識丸出しのJR各社。奇怪で不便きわまりない巨大駅。新幹線が東京駅を離れた瞬間深い安堵感を覚えました。

博多観光と世界遺産宗像大社参拝

 50歳以上の人ならだれでも使えるJR西日本の割引切符「おとなび」を利用して博多まで、12日の旅をしてきました。今までも太宰府天満宮には何度か出かけたことがありますが博多滞在は初めてで九州随一の大都会は魅力十分でした。
週末だったせいもあるのですが博多の夜は大変遅くまでにぎわってますね。それに外国人の多いこと! さすがは日本で大陸に一番近い大都市だけのことはあります。いたるところ英語、中国語、ハングルによる観光案内表示板をみかけました。
宿泊したホテルのすぐ近くには空海(弘法大師)が唐での留学から帰ってきて最初に建立したという真言宗の東長寺や博多祇園山笠で有名な櫛田神社がありました。境内には霊泉鶴の井戸というのがありそこの水を飲むと長生きできるそうです。
ところが井戸のそばに説明文があり、保健当局の水質検査を受けていないので飲めませんとありました。千年以上昔から何ともなかったものが現代の水質基準にあわないからといって飲用禁止とは、神様の泉を冒涜してやいませんか? 柄杓がないので手ですくって飲んでみました。かなり塩辛い味でしたが、おそらく豊富なミネラルが長寿に関与していたのではないでしょうか。
夜、博多座で歌舞伎を鑑賞し、翌日は昨年世界遺産に登録された「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群を訪ねてみました。国宝に指定されている8万点もの出土品や文化財のうち第一級の文物は宗像大社本殿横にある神宝館に収蔵展示されていてここは絶対外せません。ボランティアスタッフによるていねいなガイドがあります。スタッフのみなさんは高齢男性が多く皆さん古代史に精通されているようすでした。そういえば神宝館のお客はほとんどが男性でなるほど「古代史ロマンは男のロマン」を実感しました。

ふつう古代の日本といってもピンとこないのですが、この神宝館ではヤマト政権や鉄器時代の夜明け、日本の夜明けがリアルに感じられました。そのあとフェリーに乗って大島に渡り「沖津宮遙拝所社殿」などをレンタサイクル(電動アシスト付き)を借りて見て回りました。視界のいいときははるか遠くの水平線上に「神宿る島」沖ノ島が浮かんで見えるとのことでしたが、この日は薄曇りで何も見えませんでした。

仮想通貨と“億り人”

“億り人(おくりびと)”~何とも不気味な言葉が流行るものです。ビットコインに代表される仮想通貨やFX(外国為替証拠金取引)の激しい値動きに便乗して短期間に1億円ものお金を手にした人々のことをこう呼ぶそうです。この言葉の語源は2008年に封切られた日本映画「おくりびと」から採られていることは想像に難くありません。一言でいうと本木雅弘(もっくん)演じる若者があることをきっかけに納棺師になるお話です。そこでは死が真っ正面から取り上げられています。
そうしたいわば不吉な言葉を投機でにわか成金になった自分自身に対し嬉々として冠するのが私には不気味。果たしてビットコインはあっという間に暴落し、ネット上では自身の破産、破綻の程度がいかに大きいかを自慢げに書き込みする記事や動画であふれかえっています。
一朝にして天文学的な額の追証に追いかけられる“億り人”たち。彼らの年齢は見たところ20代~40代の若者です。そして破綻しかけている取引所の社長もこれまた幼さがまだ残っている20代の青年です。
もとより仮想通貨の複雑な仕組みなど理解できず、なぜ価値が発生し価格が上下するのか、そのメカニズムが全然分からない私のような時代遅れの人間にとっては、数百億円が一瞬にして溶けてしまったらしい今回のコインチェック事件について語る資格はありません。
しかし似たような話はこれまでも繰り返しどこかで聞いたことがあるような気がします。三島由紀夫の小説「青の時代」(1950)は実際にあった事件を題材にした小説。戦後の混乱期に秀才青年が高金利の闇金融会社を作りやがて破滅する話です。
「ライブドア事件」も同じ系列の事件でしょう。その後国政に打って出ようとした主役のホリエモンの行動のいっさいが私には今も謎ですが、いずれの事件も優秀な若者が決定的な役割を演じています。

本来若者には既存の価値観に縛られず高く自由に飛翔しようとするほとんど本能的な性行があると言っていいでしょう。失敗するかもしれないからといって青春の野心や野望を実現しようとする若者の行動を非難することは誰にもできません。しかしひとつだけ覚えておいてほしい、“億り人”が次の日にはあっけなく“送られ人”になってしまうことを。

岡山にアルザスパンの店がオープン

 最近、岡山市門田屋敷にエックさんというフランス人が故郷のアルザス地方のパンを製造販売する店をオープンさせた、という新聞記事を読みました。岡山ではライ麦粉を使った本格的な堅いパンがなかなか手に入らないので、岡山駅からはちょっと距離があるのですがチンチン電車に乗って出かけてみました。
 門田屋敷の交差点角にあるツタのからまる小さなビルの1階にその店「ベック・アルザスパン」はありました。ほんとうに小さな店で先客がひとりでもいると後からきた人は店の外で待つしかありません。
 ドアを開けて「ボンジュール、ムッシュー!」と声をかけたらエックさんは顔に粉をつけたまま笑顔で応対してくれました。野生の酵母菌を培養した発酵種を使ったパンはもちもちした食感と酸味が特徴とか。カンパーニュ、ライ麦パン、バゲットなどいろいろ買ってみました。小麦粉はフランスから輸入したものを使用しているそうです。
 次のお客さんが来るまでのあいだちょっと四方山話をしました。フランス人はとっつきにくい人が割合多く「木で鼻をくくる」とはこのこと、と思わせる人によく出会いますが、エックさんはほんとうに人なつこい人でいろいろご自身のことも語ってきかせてくれました。
 来日して以来、関西を中心にあちこちの店で働いた経験もあるそうですが岡山が気に入ってここに店を開いたとのことです。私のこともいろいろ聞いてくれました。大阪で働いていたが親の介護のために岡山に帰ってきたこと、卒業した中学校が門田にあってこの辺りにくるのは久しぶりだけれど懐かしいなど、たわいもない話をしているうちに次のお客さんがきて店を後にしました。
 エックさんのパンは食べ応えがありました。バゲットは昔アルジェリアに滞在していたころ食べていたような素朴な味のパンでした。スーパーの大手メーカーのフランスパンは不味すぎ、デパートのフランスパンは美味しすぎます。それに対しエックさんのバゲットはドイツとフランスの間にあって苦難の歴史を繰り返したアルザスのつらい歴史を少し感じさせる滋味あふれるものでした。

 忘れかけの私のフランス語では聞き取れなかったこともありましたが、またひとり、ふる里岡山でいい出会いがあったとうれしくなりました。

2018年2月7日水曜日

京鹿子娘五人道成寺(映画)

 先日、何年かぶりにイオンモール倉敷に出かけ、MOVIX倉敷で松竹製作配給のシネマ歌舞伎を見てきました。歌舞伎の舞台をそのまま映画に収録したものです。大歌舞伎をライブで日常的に見ることができるのは東京、名古屋、京都、大阪、博多などの大都市に限られ、また観劇料も高いので、シネマ歌舞伎のように地方にいながら映画並のリーゾナブルな料金で歌舞伎に接することができるのはとてもありがたい企画です。
 今回見たのは女形舞踊「京鹿子娘五人道成寺」と「二人椀久」の2本立て。娘道成寺では板東玉三郎、中村勘九郎、七之助ほか合わせて5人の女形による白拍子花子が艶やかに舞いを披露。花子はたちまち蛇に姿を変えて道成寺の鐘に巻き付いて実らぬ恋の恨みを晴らすスペクタクルです。お姫様の衣装から蛇の抜け殻をイメージする衣装に早変わりするところが最大の見所です。
花子は実は安珍清姫の話に登場する清姫の亡霊です。清姫は自分にちっともなびかないイケメン修行僧の安珍を追いつめ、安珍は道成寺の鐘の中に隠れるのですが、恋ゆえにとぎすまされた嗅覚をもっている清姫は安珍の隠れ場所をたやすく嗅ぎ付け、大蛇に変身し鐘もろとも安珍を締め殺します。
伝統的な解釈ではこの話は清姫の安珍に対する悲恋・悲劇でしょうが、今風に言うと、これはまぎれもないストーカー事件だと思います。「ストーカー」という概念を表す用語がなかったつい20年ほど前までは清姫のような過度に一途な女性から詰め寄られて苦しく怖い思いをしたり、中には押し切られてしまった男性は世に多かったことでしょう。
五人道成寺の白拍子花子(清姫の亡霊)はストーカーの本質をよく表しています。相手が拒否しているのに一方的に迫る、それでも相手から無視されると恋の感情は怒りと憎しみに変わり、ついには蛇のイメージさながらのモンスター的感情に支配されます。安珍清姫の話は恋慕の感情はときにはコントロール不可能な狂気に変わりうることを昔の人もよく分かっていたのだと作品を見ながら思いました。

「二人椀久」は玉三郎、勘九郎による幻想的、情感豊かな作品でした。勘九郎は年とともにますます魅力を増し華がある役者。静かに踊る姿はもうたまりません。(上映終了)

これはお得!JR西日本「おとなび」切符

50歳以上の皆様、JR西日本の「おとなび」という旅クラブをご存じでしょうか? クラブとは名ばかりで会費等は不用、簡単な登録をしさえすればJR西日本の新幹線や在来線特急料金が「のぞみ」で3割引き、「こだま」は何と6割引になるという、JRにしては珍しく太っ腹な割引サービスを提供しています。
例えば岡山から新大阪までの普通指定席の片道料金(運賃込み)は通常6,030円ですが、「おとなび」で予約すると「のぞみ」では、4,210円、「こだま」では2,320円です(執筆時)。「のぞみ」より30分乗車時間が長いだけに過ぎない「こだま」の割引額は驚異的で、これは在来線の運賃(乗車券)3,020円よりさらに700円安い設定ということになります。
しかしながら昔のことを振り返ってみると東海道新幹線が開業して以来かなり長い間、東京と新大阪の間は、速達タイプの「ひかり」と各駅停車の「こだま」で料金に差が設けてありました。それがいつのまにか、確か「のぞみ」ができたころか、「ひかり」と「こだま」が同一料金になってしまいました。
その結果「こだま」は遅い、高いという理由であえて乗る人はほぼいなくなり、さらに「のぞみ」の運行の邪魔になることもあり、運行頻度は今や1時間に1本というさびしさです。本来時間がかかる「こだま」の特急料金は大幅に引き下げるべきだと思いますが、在来線特急料金との兼ね合いもあってか簡単にいかないのかもしれません。そんなところに「おとなび」のような年齢限定ではありますが、大幅割引サービスが生まれる余地があるのでしょう。
「空気を運ぶよりはまし」という発想法は必ずしも鉄道事業にはなじまないのかもしれませんが、「おとなび」で実現できたような思い切ったサービスをもっと大胆に全国の新幹線に拡大することはできないのかなと思います。

いままで「おとなび」切符で旅行したのは岡山・新大阪と大阪・金沢だけですが、2月中旬には岡山・博多を往復する予定です。山陽新幹線(JR西日本)の終点が博多なので「おとなび」も博多が最西端の駅になります。ちょうど梅の開花シーズンですが太宰府天満宮にこの時期に行くのは初めてで楽しみです。それに博多のモツ鍋と辛子明太子も。