2012年1月22日日曜日

老衰した人の栄養摂取

   いきなり“老衰した人”などという不的確な言葉を使うのは他にいい言葉が見つからないからですが、どんなイメージかというと超高齢になって食が細くなり、ごちそうを楽しもうにも入れ歯では十分噛む力がないうえに、もはや具体的に何をどのような調理法で食べたいか訴えることもなくなった状態です。

94歳になる私の父がこんな感じですが、これ以上栄養状態が悪化すると一挙に老衰がすすみやがて多臓器不全という最悪の結末が待っています。何とかして食べてもらわないと。ふつうの食べ物はもはや弱った咀嚼力と借り物の歯ではまとまった量を食べることができず、いろいろ試行錯誤した結果ミキサー食が一番いいということが判明しました。

どんな料理もミキサーにかけるとどろっとした不気味な濃いスープのような代物になり、とてもじゃないけど見た目食欲がわきません。ところが意外にも父はけっこうおいしそうに食べてくれるのです。ミキサー食の中にご飯やジャガイモなども入れているので、ほかに主食やおかずはなくても老人に必要な栄養やカロリーは摂取できる計算です。

でもミキサー食だけの食卓では味気ないので、茶碗にもご飯をよそおい、豆腐やサラダ、温泉たまご、デザートにプリンやヤクルトなども添えてミキサー食のグロテスクさが目立たないよう工夫しています。

ところで、父はこのごろスプーンを持ち上げるのさえめんどうがり、私が見ていないと何とヤクルトの小さなストローをミキサー食や豆腐に突き刺してチューチュー吸い込もうとしているのです。

 しかし、父のなさけない姿を見ていてある日気付きました。「そうか、人間は年を取ると子供に返るというけれど、今や父は赤ちゃんにまで戻って母親のおっぱいに吸い付いている気分なんだ」と。

 歯の生えていない赤ちゃんは生まれ落ちたその瞬間、誰に教えられることなくものすごい力でおっぱいを吸います。人間に最後まで残るのがこの吸引パワーであることをはからずも父が教えてくれました。ストローなら誤燕しないことも驚異的。

 ではもっと遡って胎児にまで戻ると…そう、へその緒です。寝たきりの母が今その段階です。胃ろうというへその緒で理想的な栄養を摂取しています。不幸せ?いや幸せです。

タイで風邪をひく

   今年はインフルエンザが大流行しているわけでもないのに、知り合いに風邪引きが多いことに気づきました。風邪をひいている友人たちはそろって医者嫌い。罹ってから1ヶ月も長引かせていること、みんな60代半ばという共通点があります。電話口から彼らの鼻声が聞こえてくると私は口を酸っぱくして、医者へ行け、それも内科より耳鼻咽喉科の方がいい、とアドバイスしています。

そういう私も正月明け、たまの息抜きにと思って出かけたバンコクで風邪を引いてしまいました。熱帯のバンコクでは商店もホテルも冷房がよくきいているのですが、その冷やし方が半端じゃありません。とりわけマッサージ屋では冷房を思いっきりきかせていて、いくら「寒い」と言っても聞き入れてもらえません。

確かに文句を言ったときは温度を上げたりスイッチを切ってくれるのですが、すぐにまた冷房が最強になっています。それはそうでしょう、こちらはほとんど裸で横たわっているだけなのにマッサージ師は大変な重労働で施術中暑く感じるのは当然です。強ばった筋肉をほぐしてもらうためのマッサージなのにかえって自律神経失調症になりそうです。

同じマッサージでも王宮前広場の緑地などで営業している青空マッサージはとても快適。中年のおばさんがゴザをひろげて観光客に声をかけています。清潔感に多少欠けるものがあるとはいえ涼しい風が通り抜けていく芝生の上のマッサージは極楽です。お値段は1時間100バーツ。たったの250円です。

それはともかく90分の極寒マッサージから解放されるころには体は芯まで冷え切って何かやばい感じがしました。こうなっては舌がしびれるようなグリーンカレーを食べ、トウガラシで赤く染まったトムヤンクン(スープ)を流し込んでタラタラ汗をかいても手遅れです。

風邪は体の中に蓄積した矛盾を解消するために体が必要としているプロセスなのでときおり風邪をひくことは健康な証拠だという説を聞いたことがあります。そういう意味では私の友人たちのように風邪と1ヶ月つきあってもいいのですが、在宅介護をしている身としては超高齢者に風邪をうつすことは避けなければなりません。毎年1度か2度必ずお世話になっている耳鼻科の先生にこれから診てもらうことにします。