94歳になる私の父がこんな感じですが、これ以上栄養状態が悪化すると一挙に老衰がすすみやがて多臓器不全という最悪の結末が待っています。何とかして食べてもらわないと。ふつうの食べ物はもはや弱った咀嚼力と借り物の歯ではまとまった量を食べることができず、いろいろ試行錯誤した結果ミキサー食が一番いいということが判明しました。
どんな料理もミキサーにかけるとどろっとした不気味な濃いスープのような代物になり、とてもじゃないけど見た目食欲がわきません。ところが意外にも父はけっこうおいしそうに食べてくれるのです。ミキサー食の中にご飯やジャガイモなども入れているので、ほかに主食やおかずはなくても老人に必要な栄養やカロリーは摂取できる計算です。
でもミキサー食だけの食卓では味気ないので、茶碗にもご飯をよそおい、豆腐やサラダ、温泉たまご、デザートにプリンやヤクルトなども添えてミキサー食のグロテスクさが目立たないよう工夫しています。
ところで、父はこのごろスプーンを持ち上げるのさえめんどうがり、私が見ていないと何とヤクルトの小さなストローをミキサー食や豆腐に突き刺してチューチュー吸い込もうとしているのです。
しかし、父のなさけない姿を見ていてある日気付きました。「そうか、人間は年を取ると子供に返るというけれど、今や父は赤ちゃんにまで戻って母親のおっぱいに吸い付いている気分なんだ」と。
歯の生えていない赤ちゃんは生まれ落ちたその瞬間、誰に教えられることなくものすごい力でおっぱいを吸います。人間に最後まで残るのがこの吸引パワーであることをはからずも父が教えてくれました。ストローなら誤燕しないことも驚異的。
ではもっと遡って胎児にまで戻ると…そう、へその緒です。寝たきりの母が今その段階です。胃ろうというへその緒で理想的な栄養を摂取しています。不幸せ?いや幸せです。