夏の終わり: 風は涼しこの夕べ
県庁のミュージックサイレンに関し筆者がNHKからインタビューを受けた話を前回ご紹介しました。オンエアされた映像は約7分にまとめられており、私自身の露出時間が大半を占めていました。なんだかミュージックサイレンの話より私の介護人生の方により焦点が当たっているような印象さえあり少々面はゆい。
オンエアに引き続いていろんなことがありました。20年以上介護をしてきた最愛の母は放送のわずか2日後、自宅で私と孫娘に手をとられて静かに息を引き取りました。
家族と親族だけで小さな葬式を執り行いましたが、話題の中心はもちろんNHK岡山の「もぎたて!」に出演したことです。「どういういきさつでテレビに出たの?」というのがみなさん共通の疑問。私は「岡山を代表する文化人をNHKが見逃すはずがないじゃないか!」などとみんなをからかってやりました。
しかし本当は長年介護してきた母が、天寿に近かったとはいえここ1ヶ月次第に衰えていくのを一人で見守るのはとてもつらいことだったのです。老い、病、近づく死の影に支配された暗い家。そこに若さ、知性、快活さ、優しさ……要するに死の対極にあるものをひとりの若者がテレビカメラとともに持ち込んだのです。私のような老境に差し掛かった人のひとりよがりの話にもじっくり耳を傾けてくれ、何日もかけ、長時間かけ私の意識の中心部にまで迫るビデオ映像を切り出してくれたカメラマン氏。このS君の存在は大きな救いであり、また収録につきあうことはいい気晴らしになりました。
オンエアされた映像は母へのすばらしいはなむけになり息子としては最良の形で母を見送ることができました。もし取材の申し込みがこのS君でなかったら瀕死の母の寝室にまでテレビカメラを持ち込むことなど決して同意しなかったと思います。そのように思います。
8月31日、いよいよミュージックサイレンの最終奏鳴のときが近づきました。私は「家路」の歌詞を手書きで紙に写し、コンビニで20枚コピーを取り、県立図書館前に集まったサイレンを惜しむ方々にお配りしました。
作曲:アントニン・ドヴォルザーク
遠き山に日は落ちて(家路)
作詞:堀内敬三
遠き山に日は落ちて
星は空をちりばめぬ
きょうのわざをなし終えて
心軽く安らえば
風は涼しこの夕べ
いざや楽しきまどいせん
まどいせん
やみに燃えしかがり火は
炎今は鎮まりて
眠れ安くいこえよと
さそうごとく消えゆけば
安き御手に守られて
いざや楽しき夢を見ん
夢を見ん
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家路
作詞:野上彰
響きわたる鐘の音に
小屋に帰る羊たち
夕日落ちたふるさとの
道に立てばなつかしく
ひとつひとつ思い出の
草よ花よ過ぎし日よ
過ぎし日よ
やがて夜の訪れに
星のかげも見えそめた
草の露にぬれながら
つえをついて辿るのは
年を老いて待ちわびる
森の中の母の家
母の家
県立図書館前で配った歌詞はこの二つの日本語訳を一枚のA4用紙に両面コピーしたものです。年齢によってどちらの歌詞を習ったか、両方に対応できるように工夫しました。
どちらの歌詞もそれぞれいいところがあります。今の私の心境では野上彰(1909-1967)の方かな。
みんなといっしょに「家路」を口ずさみながら岡山県庁のミュージックサイレンに最後の別れを告げました。
夏は終わり、なつかしい秋の風が吹き始めました。
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岡山のKSB放送が最後の演奏の様子をYouTubeにアップし
ています。最後のシーンで何人かの人が持っている歌詞(A4用紙)は私が配布したものです。私自身の姿も、歌詞を配っているシーンが、終了直前、少年の背後にちらっと写っています。(初老の太ったおっさん)
https://www.youtube.com/watch?v=GPjprMPbRuI
8月31日最後の「家路」の音声が美しい投稿はこれ。
https://www.youtube.com/watch?v=jXMvy8m8Ox8
(参考 英語のオリジナル歌詞)
Going home (Antonin Leopold Dvorak 1893/ William Arms Fisher 1922)
Going home, going home
I'm just going home
Quiet-like, slip away
I'll be going home.
It's not far, just close by
Jesus is the Door
Work all done, laid aside
Fear and grief no more.
Friends are there, waiting now
He is waiting too
See His smile, See His hand
He will lead me through.
Morning Star lights the way
Restless dream all done
Shadows gone, break of day
Life has just begun.
Every tear wiped away
Pain and sickness gone
Wide awake there with Him
Peace goes on and on.
Going home, going home
I'll be going home
See the light See the sun
I'm just going home.