「中国銀行第三代頭取守分十の世界」(日本文教出版)という本が岡山文庫に加わりました。著者は本誌前編集長の猪木正実氏。「あとがき」によれば猪木氏は生前の守分頭取に直接取材したことはないとのことですが本書を書くにあたって十氏の孫にインタビューしています。
この孫というのが守分宣(ひろし)君。守分君とは中学、高校のそれぞれ2、3年次を同じ教室で過ごしました。彼は学校ではあまり熱心に勉強をしているようすもないのに成績抜群だったのが不思議で中2のころ勉強法を尋ねたことがあります。
答は案外平凡で、「計画を立てて深夜遅くまで予習復習している」という。私が「そんな時間まで起きていたら眠くならない?」と聞いたら「眠くなったからといって寝ていたら勉強などできやしないよ」とのご託宣が。こういう意志の強さ、義務の観念の強さはおじいさん譲りだったのかもしれません。
しかしパーソナリティに関してはおじいさんがワンマンだの天皇だのと人から恐れられたのに対し守分君はひとつことにこだわったり青春時代を深刻ぶって懊悩するようなタイプではなく、高校時代連日遅刻して教師からさんざん文句を言われても笑って軽く受け流していました。
そんな守分君が一度だけさえない顔色を見せたことがあります。高3の終り東大入試を受けて帰ってきた彼に「試験どうだった?」と尋ねたときです。「失敗した。落ちた」と真顔でいう表情はいままで見たことがなかったので少し驚きました。でも結果はちゃんと合格でした。
大学時代は同じ東京にいたはずですが、学校が違っていたせいもあって会うこともなく交流は途絶えたままその後何十年かが過ぎました。そして今年の正月、久しぶりの同窓会で席が隣になりました。
「これまでのキャリアで一番楽しかったのはいつごろ?」と話しかけたら「ドイツ駐在時代かなあ(日銀フランクフルト事務所)」とのこと、「ドイツ人は一見とっつきにくいけど本当に親密な人間関係が作れるよね」などと話がはずみました。
しかし会が始まってわずか30分、守分君はひととおり顔合わせがすむとそそくさと会場から消えていきました。ものごとに拘泥しないで風のように飄々とすべてをやり過ごす彼の流儀は相変わらずでした。
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