2012年11月16日金曜日

上海旅行 高松空港税関の憂鬱


年に3、4回上海に出かけていると帰国時、税関職員から毎度毎度同じ質問をされます。「なぜ上海へ頻繁に出かけるのですか?」

ビジネスでも観光でもなくしかもしょっちゅう出かける、おみやげを持っていない、手荷物もない、着替えすらない……これはかなり怪しい。きっと上海の裏社会とつながりがある……。このように税関職員様は想像しているようです。

でも、そうではないのです。おみやげはあげるべき人がいない、着替えがないのはホテルで夜のうちに洗濯してバスタオルで水気を切り、ドライヤーで乾かして翌日また同じものを着るから。

40年も一人旅を繰り返しているうちに旅具は極端に少ないのが一番、本当は手ぶらがベストであることを学びました。財布とパスポート、スマホ以外何も要りません。旅行日数が長くなればなるほど荷物をもたないのが快適な旅のコツです。

さて、税官吏の一番の関心事である私の素行ですが、職員は私に「上海のどこで何をしたのか」と聞いてきました。私は「そんなプライベートなことにはお答えできません」と返事を拒否。しかしあらためてどこで何をしたのか思い出してみると、食べる、寝る、町をうろつく、地下鉄やバスに乗る……ぐらいしかしてないのです。今回はフィギュア・スケート観戦という充実した時間を過ごすことができたのですが、いつもは本当に何もしないでただゆっくりした時間を過ごしています。

旧フランス租界は今でもシックな町並みが保たれ、素敵なカフェやレストランがそこここにあります。フレンチの店でフランス人のガルソン(ボーイ)相手によもやま話をするのが好き。もう何十年もしゃべったことのないフランス語が案外調子よく口から出てくるのはおいしいボルドーワインのせいでしょう。

プラタナスがトンネルを作る裏通りに面したカフェではスマホがWi-Fiでつながりタダで日本まで長電話できます。日本語でしゃべっていても中国人のお客が殴りかかってくる心配はありません。なにしろここは洗練された旧フランス租界。粗野な中国流マナーは通用しません。

今度税関でまた同じことを聞かれたら、上述のようなとりとめのない話を「起きて寝て……」と延々聞かせてやろうと思います。

2012年11月7日水曜日

チャイナ・グランプリ補足

フィギュア・スケートを生で見たのは初めての経験でした。同窓会の友人たちに送ったメールを多少加筆修正してブログに転載します。

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会場は騒々しかったのですが、スケーティングはほんとに音がしないスポーツですね。エッジをきかすときかすかに氷を削る音がするぐらいで、スケーターが無音の広いリンクを猛スピードで移動する様はCGを見ているような感じでした。

日本は今回優勝した町田樹(まちだ・たつき)もそうですが、ワールドチャンピオンレベルの選手がゴロゴロいますが、(レクサス)チャイナ・カップに登場した各種目10人ほどのうち前半の5人のレベルはとても低かったです。とくに地元中国の男子選手たちはかわいそうなくらいレベルが低くトップスター達の前座にすらなっていませんでした。

高橋は精彩を欠いていて残念でしたが王者の貫禄がありスタンディングオベーションでした。演技内容がきわめて芸術的でスポーツというよりオペラを見ているような気分になりました。このようなタイプの選手はもう二度と現れないような気がします。ちなみに高橋の出身高校、倉敷翠松は高橋のおかげですっかり有名になり、神奈川県出身の町田樹も高橋にあこがれて倉敷翠松に高校留学したそうです。(大きな声ではいえませんがこの高校は昔は○○学園という岡山では偏差値最□の女子校でした。あんたとこの娘さん、どこの高校いきょん?と聞かれてもうつむくしか)

アクシデントもありました。テレビ中継されたかどうか知りませんが、男子フリーの後半4人が5分間のウォーミングアップをしていたとき中国の選手とアメリカのリッポンが衝突し、中国人選手が氷の上から立ち上がれないまま退場するというアクシデントがありました。リッポンはちょっとだけ気にして倒れている選手に声をかけていましたがすぐに練習に復帰。ところが事件に無関係の高橋は中国人選手を気遣ってそばにいっていました。こういうところが高橋のいいところですね。人間の良さが出ています。

結局、中国人選手は担架で運ばれていき、試合には復帰できませんでした。そして、5分間の練習も中途半端だったので、仕切直しになりもう5分追加されました。こうした様子を見ていて私は神経が細い高橋に悪影響があるのではないかと、高橋の表情を2メートルほどの距離から見ていたのですが、やはりでした。

浅田真央は中国人にとってもアイドルのようで高橋同様大人気でした。すごくきれいで品がありますね。

上海の地下鉄は便利なのですが、終電がほとんどの駅で10時台。フリーのあとペアー、さらに表彰式まで見ると終電に乗れないので男子フリーを見終わったところで会場を離れました。初日には会場付近に飲食施設が絶無であることを知らずに午後3時から午後10時過ぎまでパンひとかけらで耐えるというつらい目にあったので、2日目は、コンビニ弁当、サンドイッチ、おにぎり2個、水代わりのミカン4個を持ち込みました。帰国して録画していたテレビ中継を見たら、弁当にくらいつく白髪薄毛デブのおっさんが写っていました。

フリーの日の席は選手が入場するコーナーのすぐ上で、演技直前の緊張した選手の表情が手に取るように分かる位置でした。私はフリーの試合は最初のプログラムであるアイスダンスが終わってから会場に入ったのですが、やはり席には先客がいました。日本人グループで大学生らしき男が座っていました。無言でチケットをちらりと見せてどかしたのですが、するとヤツは私のことを中国人と思ったらしく、連れの女に「このおっちゃんが席をあけろというから後にいくわ」などと言っていました。
「ここはもともとおっちゃんの席ですけど、それが何か?」と言ってやればよかった。

尖閣問題の影響についてはほぼゼロでした。日本人だと言っても別にいやな目にあうこともなく、いつもと変わりませんでした。ただ国営マスコミがしきりにあおっていました。沖縄の暴行事件を詳しく報道し、沖縄では民衆による反米、反政府運動が盛り上がっている、と余計なお世話の報道に熱心。尖閣の次は沖縄を狙っているのが見え見えです。

フィギュアスケート、グランプリシリーズ中国杯観戦記


尖閣諸島国有化以降、いまだに日中の首相が国際会議の場で顔を合わせてもお互いに顔をそむけるという異常事態が続くなか、3泊4日の上海旅行に出かけました。

出発前の心配は無用でした。町はいたって平穏、地下鉄やバスに乗ると「ご老体、こちらへどうぞ」と何度もしつこく席を譲られました。日本より若者が多い中国では白髪薄毛の私はりっぱな老人です。

滞在中、思いがけない幸運に恵まれました。フィギュア・スケートのグランプリシリーズ、中国杯の開催とぶつかったのです。高橋大輔、浅田真央、男子シングルで優勝した町田樹(たつき)らの華麗な演技をVIP席から観戦できました。

 VIP席というのは何も私が要人というわけではなく単にリンクに一番近いセクションの名称にすぎません。一般席とVIP席の境には警備員がいて安いチケットでVIP席に侵入してくる観客を阻止しているのですが、そこは中国のこと、トイレから帰ってくるともう見知らぬおっちゃんがデンと座っています。

 「そこは私の席ですけど」と言うと、彼らは他の空いている席を指さして、「おまえがそっちに座ればいいじゃないか、いちいちうるさいこと言うな」と逆切れ。

 こういう場面では現地駐在日本人奥様族はあっぱれでした。私のすぐ前の列の上海マダムは、自分の席を占拠していた不法侵入者を優雅なあご先とにらみだけで撃退、ひとことも発することなくです。

そしてすぐに奥床しい笑顔に戻り隣席の日本からの追っかけファンに「真央ちゃん、かわいいわね、オホホホホホ」と口元に手を寄せてささやきかけていました。一連の仕草は優美かつ毅然としていて、生き馬の目を抜く上海社会にみごとに適応しているようすがうかがえました。

中国人観客の多くが大ちゃんや真央ちゃんの熱狂的なファンで、日本式にDai-chan, Mao-chanと呼ぶのがクール。真央ちゃんの演技が終わるやいなやぼうだいな数のぬいぐるみや花束がリンクに投げ込まれました。

すぐにちびっ子スケーターたちが回収にかかるのですが、舞台裏を見下ろしていると、そうした贈り物はいきなりゴミ袋へ。黒のポリ袋のまま選手に届けられるのかそのまま捨てられるのか知りませんが、こういうところがいかにも中国的でした。

新県知事(岡山)に期待する


 石井知事の後任に伊原木隆太前天満屋社長が選ばれました。選挙の争点が曖昧だったせいか有権者は何を基準に投票すればいいのか迷ったようです。投票率の悪さにそのことが如実に表れています。

しかし争点が曖昧ということは裏返していうと、知事が果たすべき緊急かつ重要な課題が岡山県は他都道府県に比べて相対的に少ないということを意味していないでしょうか。

原発をかかえているわけではないし、来るべき東南海地震の津波予想も太平洋に面した県の被害予想とは1桁違います。台風は四国山地が防波堤になっている。うっとうしい領土問題とも無縁で、最初から知事に対する負荷は低いはずです。

そんな岡山県の新知事の抱負は、「産業振興と教育の立て直し」(知事談)とのことですが、どうもピンときません。特に「教育の立て直し」の中身が「道徳教育の充実」とは少々アナクロではありませんか?

道徳教育というと論語や孟子など儒教道徳を連想しますが、現実の中国を動かしている中国人の思考パターンを見るとマキャベリも真っ青のウルトラ現実主義です。とにかくやることなすこと品がない。こういう風土だからこそ儒家たちによって道徳が声高く叫ばれたのでしょう。

いっぽう卑弥呼で有名な魏志倭人伝(3世紀末)には「日本には盗みがなく、訴訟が少ない」と明記してあります。太古の時代から日本人は一貫して中国人が驚くほど道徳的な民族だったのです。今更年若い知事が「もっと道徳を!」と叫ぶのは何か違う気がします。

むしろ日本の若者に必要なのは黒を白と言いくるめて何ら恥じない中国人の厚かましさ、ねばり強さです。逆境でもなりふりかまわず生き抜く強さ、自己主張する能力と技術を子どもたち、特に岡山の子どもたちに身につけて欲しいと思います。

新知事は、非常にリベラルな校風が特徴だった中学校の20年ほど後輩でいらっしゃるとのことなので、あえて当選直後の抱負に水をさすようなことを書いてしまいましたが他意はありません。バックグラウンドも経歴も輝かしく、官僚の悪弊にも染まっていない若い知事の誕生を心から祝福し期待します。

だれにも遠慮することなく、いい子になることなく、思う存分腕を振るっていただきたいと願います。