1学期の終了式、全国の小学校、中学校の校長先生は訓辞の最後にきっとこのような言葉を付け加えていると思います。「最後に皆さん、9月の新学期には全員元気に真っ黒になってここに戻ってきて下さい」と。
私が子どものころ、40日の夏休みは平穏無事、大した行事もなく、家でゴロゴロする毎日。お盆を過ぎてから大慌てで宿題に取りかかり、9月1日はまだ熱気が残る新学期の教室に戻ったものでした。事件や水難事故にあう生徒もいなかったわけではないにしてもそれは不運な例外でした。
ところが現代では500人もの数の児童や生徒が一人残らず夏休みを無事に乗り切るのは奇跡に近いぐらい難しいことではないか、そんな気がします。校長先生の言葉は終業式での型に決まった訓辞というより心底切実な願いに違いありません。
大阪府寝屋川市で起きた中学生殺害事件は本当に痛ましい、やりきれない事件でした。大阪の友人に「いったい、今の子どもはどうなってるの? 夜、出歩いて親は止めないの?」と聞いたら、「夜中に出歩いたり、よその家に泊めてもらうことなど珍しくも何ともないですよ」とのことでした。
人気(ひとけ)のない深夜の商店街をスマホの電源を探していたのでしょうか、行ったり来たりしている殺害された男女生徒のシルエットが防犯カメラの動画に残っています。底知れない孤独と悲しみに満ちた遺影であると私には感じられました。
安全神話が浸透した日本は事実世界のどこの国よりも安全です。安全を信じて疑わないからこそ他人を無防備に信じて、いとも簡単に犯罪の餌食になるのでしょう。
日本を訪れた外国人が一様に驚くのはランドセルを背負った小学生が一人で地下鉄や電車に乗っている光景だとか。欧米や中国では子どもの通学はスクールバスに乗せるか、親が送り迎えするかが義務づけられているそうです。それでも子どもの誘拐事件は日常茶飯事です。
安全だと思われている日本でも、子どもを取り巻く環境には危険な落とし穴がいっぱい仕掛けられていることが今回の事件で改めて確認されました。子ども達を守るためには夜間の外出を制限し、子どもの徘徊には警察官による補導だけでなく周囲の大人たちの積極的な声かけが必須だと思われます。