2016年7月24日日曜日

“介護殺人”NHKスペシャル


 「私は家族を殺した“介護殺人”当事者たちの告白」という副題がついたNHKの特番をたまたま深夜の再放送で見ました。私自身53歳で両親の介護のために長年勤めてきた大学図書館を辞め、以来すでに16年の歳月が流れました。2年前に父を送り、現在も引き続き寝たきりで認知症の母の介護に明け暮れる毎日です。
 当然要介護度5ですが、5は一番重いランクであっても本当につらく大変なのは要支援から介護度1,2あたりです。この時期はまだ体力があり、家族に暴言を吐き、暴行をふるう、徘徊する、長年暮らした自宅にいながら「家に帰りたい」と訴える、目を離したすきに転倒し救急車のお世話になる……想像を絶する緊張とストレス、不安に介護者は24時間さらされます。
 介護者は自分自身の行動と決断についてもこの時期悩みます。自分の人生、自分の老後のために働き続けなければいけない時に離職したことに対する後悔と葛藤は大きいものです。それに何と言ってもだれでも介護を始めた当初はズブの素人で、介護保険の仕組みやサービスの利用方法も全然分かりません。兄弟親族はというと?……近所に兄一家が住んでいるのに知らん顔。見かねて遠方に住んでいる自分が犠牲になっているという腹立たしさ、怒りの感情を自分の中に抱えたままの介護です。
 介護保険料も払ってきたし、それなりの制度もできている、兄弟姉妹に助けを求めようとすれば不承不承でも力を貸してくれるかもしれない。でも何もかもうまくいかない、どうにもならない、何も考えられない、もう死ぬしかない。こうして介護殺人が起きてしまいます。
 NHKの調べでは未遂も含め介護殺人は過去6年間で138件発生しているそうです。この数値を見ると、番組の悲惨さには暗澹たる気分になりますが、大多数の介護者は介護地獄を何とか乗り切っていることを示唆していないでしょうか。乗り切れた人と殺人犯として刑務所に入れられた人との差は本当に紙一重です。ほかの犯罪と違って介護殺人に再犯などありえません。

 刑を軽くすれば介護殺人を助長するという理由で一般的な殺人者と同じような扱いを彼らは甘んじて受けていますが、これはいかにも不公平不正義であり、法や社会が放置してはいけないことだと思います。

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