瀬戸内海の新鮮な魚介類に恵まれた岡山では天然物の塩蔵紅ザケがなかなか手に入りません。スーパーで売っているのはほぼ100%南米チリ産の養殖鮭を加工したものです。チリ産の鮭に偏見があるわけではありませんが、鮭はもともと北半球の川と海を行き来しながら一生を送る魚です。そんな鮭を南半球で養殖することに私はちょっとひっかかるのです。
チリのフィヨルドの海に網を張って人工餌を与えて養殖するのですが、網の中の鮭は南米の川を遡上しようとはせず、脳の奥深くに刻まれた本能に導かれ、ふる里の北半球を目指していつも海の方を向いているそうです。そうした望郷の念をかかえたまま水揚げされて日本に運ばれる鮭の存在が何だか哀れなのです。
それはともかく話をおいしい天然物の紅ザケに戻しましょう。岡山でもさすがデパートは別格で、北海道産やロシアあるいは北米産の色鮮やかな紅ザケが並べられていて食欲をそそります。あぶらが乗ったおおぶりな甘塩の切り身をじゅわっと焼いてご飯といっしょに食べる幸せ! 何物にも代え難いごちそうです。
岡山駅前のデパートの地下の塩乾物売場を覗くと塩鮭のほかにも鰺の干物やタラコ、ウニ、イクラ、イカの塩辛など見ているだけでも幸せな気分になる加工品ばかりです。いろんなものに目移りすること自体が大きな喜び。ところがです。私が塩鮭の切り身を品定めしようと商品棚に近づくと、たちまち売場のおばちゃんが真横に来て、私の行く手を阻むようにピタッと寄り添い、「今日は雨の日だからおまけして4切れ千円!」などと迫ってきます。
私がおばちゃんを無視してタラコの方へちょっと動こうとすると重たそうなおばちゃんもタラコの方へ後ずさりして「この明太子は……」と講釈を始める。私が押せば引く、引けば迫るで常に密着対応。いつものことながらうんざり。そもそもなぜ店員がお客サイドに出しゃばってきて接客するのか意味不明。私も一二度「ゆっくり選びたいので離れて」とお願いしたことがありますが馬耳東風です。
今日もおばちゃんは商品ケースの角の絶妙の位置に陣取ってどの方向から客が来てもすぐ密着接客する体制が万全で、私がこっそり紅ザケに到達することなど到底無理。私はあきらめてスーパーのチリ産養殖塩ザケでがまんすることにしました。
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