今、このコラムのタイトルを書きながら、パソコンが提示する「釣り銭」という字面になぜ「釣る」という漢字が使われているのか、ふと疑問に思いました。「魚を釣る」のなら分かりますが、「お客を釣る」意味合いでもあるのでしょうか。
そう言えば、昭和30年ごろ、まだ私が小学校低学年のころ、ときどき母から鍋に入ったままの総菜をお隣さんへお裾分けに持っていくよう頼まれることがありました。そのときお隣のおばさんが返してくれる鍋の中にはなぜかマッチ棒が数本必ず入っていました。その心は?
マッチの火は移る → うつる → おうつり → お釣り。つまり、「お返し」としてさし当たり何もないので、その気持ちを数本のマッチに託しました、という意味だったようです。「いじましい!」(いじけた感じがするほどみみっちい)と東京育ちの母が思ったかどうか。いっぽう、お隣のおばさんはマッチ数本で「ちゃんとお返しはしたからね」と意地を見せたというところでしょうか。
さて、コロナ禍に隠れてしまって最近キャッシュレス化の話題がすっかり下火になりました。店も各種キャッシュレスに対応しているところと昔ながらの現金のみの店に分かれるようです。そんな現金主義の店で近所の寿司屋はレジ横の器に1円玉を山盛りにして置いてあります。「1円玉が足りないときは4円までここから取ってください」と。
そういうやり方が巷で流行っているのかどうか知らないのですが、これはなかなかいいアイデアだと思います。何事にもきっちりした日本では支払いもお釣りも1円の単位までおろそかにできません。その結果、お店では日常的に釣り銭が不足することになります。
ところが以前は無料だった銀行の両替手数料がいつのまにかすごいことになっています。最近でも三井住友銀行が硬貨10枚までの両替手数料を330円と改定しました(銀行口座なしの場合)。500枚までなら770円。低収益環境で銀行も必死なのでしょうが、1円玉を500個調達するのに770円の手数料とは!いくら何でもという気がします。
銀行にこんな暴利を払うぐらいなら近所の寿司屋のように、1円玉はサービスする方がよほど気がきいているうえ、店も1円玉の両替に煩わされることがないと思います。