岡山県立美術館において開催中の同展覧会は3月14日までです。岡山にゆかりのある雪舟と玉堂の作品がこれほどまとまって一度に見られる機会はもうないかもしれません。というのも近い将来、美術館の展示スタイルが伝統的なものから様変わりするかもしれないからです。
これからの拠点美術館の機能は作品の文献学的な考察に留まらず、科学的鑑定、保護と修復、永久保存のためのセンターとしての役割がますます大きくなる一方、展示については従来のオリジナル作品をそのまま陳列する方法から、高精細画像、立体画像として作品をデジタルデータ化し、ネット回線を通じて提供するスタイルに遷移するでしょう。いつでもどこでも、感染症の流行など気にすることなく、世界中の文化遺産を自宅や学校において見ることができるようになるのは時間の問題だと思います。
そういう意味では今回のような大きな展覧会は、我々現代人にとって、数百年前に描かれた国宝級の書画を直に、しかも圧巻のスケールで見られるほとんど最後の幸運な機会と言っても過言ではないと思います。
さて今回の「雪舟と玉堂」展の中でも圧巻は国宝の雪舟「四季山水図巻」です。いわゆる「山水長巻」、全長16メートルの大作です。2006年の晩秋、私は雪舟没後500年を記念した大きな展覧会を見るため、山口県立美術館まで出かけ、初めて山水長巻の実物を見て大変感動したことを今でもよく覚えています。
雪舟の絵にはストーリー性があります。従者を伴った旅人はひたすら幽すいな山の奥深くへ踏み入っていくのですが、意外にもやがてひろびろとした湖が広がる明るい場所に出ます。湖に浮かぶ数隻の船には人々の日常生活も見えます。甲板には巨大な洗濯物が干してあったり、観葉植物の大きな鉢まで見えます。
このあたり、私は雪舟に対し無限の親しみを感じます。中世から近世へと時代が移っていることを雪舟は同時代のほかの誰よりも明瞭に意識していたのでしょう。登場人物は小さな筆で輪郭が描かれているだけなのに、人物一人ひとりの個性が伝わってきます。全人類が残した文化遺産のなかで「山水長巻」はダ・ヴィンチの「モナリザ」に勝るとも劣らない、まさに絵画芸術の頂点に立つ作品と言っていいかと思います。
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