昭和35年、小学校の修学旅行の行き先は大阪と奈良でした。学校が許可した小遣いは5百円、これは当時の物価水準から言っても大した金額ではありませんでした。
そんなとぼしい小遣いの中から買った奈良のおみやげが大仏さんのすぐ前にある森奈良漬店の「刻み奈良漬」でした。文字通り刻んだ奈良漬で「そのままお召し上がりください」と書いてありました。
旅行から帰って母に刻み奈良漬を渡したら母はあきれるやら感心するやら、あるいはいじらしく思ったのかずいぶん長い間、刻み奈良漬の話を蒸し返していました。
それから30年後、家庭菜園で採れるシロウリを自分で粕漬にしてみようと思い立ち、森奈良漬店のことを思い出しました。
大仏前の店を訪れ、ご主人に「粕だけ分けていただけないでしょうか?」と相談を持ちかけたら快く応じてくれました。奈良漬は大変手間のかかるぜいたくな漬け物ですが、そこはシロウト、適当に省略しながらも森奈良漬店の粕につけ込んだら店の商品には及ばずともスーパーの奈良漬など問題外のおいしい奈良漬ができました。
今年も電話でご主人にお願いして粕を送ってもらいました。シロウリを漬け込んだあと粕が残ったのでサワラと鮭を粕に漬けこみ、2,3日たって味がなじんだのを見計らって、いつも行く喫茶店のマドモワゼルにおすそ分けしました。
「粕そのものがおいしいでしょう」と言ったら、「本当!、まるでウニクラゲそっくり」との感想が返ってきました。森奈良漬店の手にかかると酒粕も熟成した後はウニクラゲのような濃厚な動物性タンパク味に変身。
刻み奈良漬の注意書きに酒粕を落とさないでそのまま食べるように書いてあった意味が50年ぶりに判明しました。
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