まもなく95歳になる父ですが今年の春先ごろから急速に日付や場所、家族関係などいわゆる見当識が混乱・混濁してきました。私のことを亡実兄と思い込み、「兄さん、兄さん」と呼びかけられることのつらさ、絶望感は想像以上です。
高齢のおばあさんが娘時代に戻ってしまい、結婚したことも子供を産み育てたことも忘れてしまうことは珍しくありません。父も少年時代に引き戻されている時間が次第に増えてきていました。
今までは高齢者にこのような言動が見られるようになっても「もう歳だから」とか「幸せだった時代に戻っているのだから」という言葉であきらめたり無理に納得するしかありませんでした。ところが昨年(2011)、アルツハイマー病の新薬が3つ認可され、従来からあったドネペジルと合わせ4種類の治療薬から最適なものを選択できるようになりました。
先日、父に何とか“現実感”を取り戻させたいと大学病院の神経内科を訪れました。脳のCT画像や認知能力検査の結果と照らし合わせて診断が下され、新薬のガランタミンが処方されました。
驚いたことに最初の1錠を飲んだ直後から卓効が出て、混乱していた見当識がほぼ正常になりました。積極的に専門医に父を見せたことは我ながら実に適切な判断であり、また勇気を伴う行為であったと思います。
試しに父にこんな質問をしてみました。「私(父のこと)にとって、私(息子である私)って誰ですか?」と手で父を指さし、次いで自分を指さしながら訊ねたのです。父は明快に答えました。「本人じゃが!」。ごもっとも。ごもっとも。
こんなこともありました。月水金と人工透析に病院に通っている父ですが、火曜日の朝、私が勘違いして(呆けて?)父の通院の支度を済ませ、介護業者が迎えにくるのを待っていたのですがいっこうに来ません。ようやく透析日でないことに気付き、父に「お父さん、僕が惚けてたわ、今日は透析に行く日じゃなかった」と言ったら、父は「自分が呆けていることに自分で気付いたお前はなかなか大したものだ」と誉めてくれました。
ご家族などにお心当たりのある方、認知症は今や十分治る可能性がある病気です。ためらわず専門医を訪ねることをお勧めします。
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