少し前の本コラムでご紹介しましたYouTuber“スーツ”君の動画に触発されて、山陽本線庭瀬駅から新見行きの各駅停車の電車に乗ってみました。平日の昼間、けっこう混んでいた車内も総社を過ぎるころには席は閑散としてき、高梁川の清流を飽かず眺めているうちに高梁を過ぎ、まもなく終点の新見に着きました。
新見駅は伯備線、姫新線、芸備線の3線が交わる県北の交通の要衝の地ですが、伯備線以外は昼間の列車運行本数が極めて限られ、とても思いつきで利用できるようなダイヤではありません。鉄道おたくのスーツ君も新見から備後落合へ向かうのに朝イチ夜明け前の列車に見放され、新見のホテルに2連泊を余儀なくされるという悪夢のような体験を語っています。
スーツ君の場合は列車が大雨で遅れるという不運があってのことですが、私もいくらヒマとはいえ、津山行きあるいは三次行きの列車を何時間も待つだけの忍耐力はなく、結局30分後にやってきた出雲行きの特急「やくも」に乗りました。さすがは特急です。まもなく県境のトンネルを越えると川の流れが北向きになり、車窓越しに大山を見ながら米子を経由し、夕方松江に到着しました。
思い起こせば昭和37年ごろ、春休みに家族4人で松江まで1泊旅行したことがあります。両親とも小学校の教師でしたが、父は家庭のことはすべて母にまかせ、自分はスキー、登山、カメラ、バイク、近県への日帰り旅行など、何でも一人で楽しむのを常としていました。親子4人で宿泊をともなう旅行をしたのは後にも先にも松江が唯一の例外だったように記憶しています。
そのとき宿泊したホテルは公立学校共済組合直営の「むらくも荘」という宿泊所でした。ホテルのロビーにはまったく似つかわしくない「油断大敵、壁に耳あり、障子に目あり」という謎の標語が書かれたポスターが貼られていたのが妙に記憶に残っています。たぶん公安当局が配布したものでしょう。父は「ここは日本海に面した街なので外国の工作員が密入国して、情報収集など暗躍しているのだろう。それにしてもぶっそうだなあ」と語っていました。
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