中学校時代の恩師は我ら教え子と一回りしか年が違わずまだまだお若い、しかしいつのまにか80歳を越えられました。もうかれこれ60年もの長いおつきあいです。先生とは数年前に我が家にある桑の木から苗を作って差し上げるという約束をしていながら、年々気になりつつも今日まで不義理のままきてしまいました。この桑は30年ほど前に手に入れた優良品種ですが今では売ってなく、自分で増やすしかありません。
昨年の梅雨のころ一度この桑の緑枝を挿し木にして、いったんはうまく活着したのに、まだ真夏の暑さが残っている時期に大きめの植木鉢に植え替えしてやったら根が切れてそのまま枯死してしまいました。そこで今年は桜や桃の花が咲くこの時期、実生(みしょう)の苗に接ぎ木することにしました。
実生とは鳥が種を運んで自然に生えた若木のことです。一般的に実生から育った果樹は桑に限らずビワでも柿でも原種に先祖帰りして親ほど品質のいいものは期待できません。そこで実生から育った苗を台木にし、そこに大きな実をつける優秀な品種を接ぎ木してやるというわけです。
接ぎ木は園芸好きな趣味人にとってやや高度なテクニックを要し、成功させるためにはいくつかのポイントがあります。接ぎ穂の採取時期と保存方法、台木と接ぎ穂の形成層を密着させる、切り口を乾燥から保護してやる等々、要するに人間で言えば臓器移植をするのと同じ細心の注意が必要です。私は自称セミプロですがそれでもいつも“うまくいかないかもしれない”という危惧が頭から離れません。自信がないのです。
別に失敗したってどうってことないし、何本か接ぎ木しておけば全滅ということはないのに、活着したことが分かるまで不安の日々です。ゴールデンウィークのころ接ぎ穂の堅い芽がやっと膨らみ、たくましい若葉を広げてきたら大成功です。いつもながらの感動の一瞬です。
活着した接ぎ穂は台木の養分をひとり占めしてぐんぐん大きくなり秋にはすっかり一人前の苗になるはずです。晩秋のころ株を掘り上げ、先生のお宅にお持ちしようと思います。桜が咲くなか、無事接ぎ木の作業を終えてほっとしています。こんな簡単なことをなぜ数年も毎年見送ってきたのか悔やまれますが、これは私の性格なのでどうにもなりません。
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