秋の味覚といえば20世紀梨、サンマ、マスカット、マツタケ……秋の珍味は数々あれどやはりマツタケだけは別格。国産もののなかでも岡山産マツタケはとりわけブランド感にあふれています。そんな岡山産高級マツタケとのご対面を目指して、秋晴れの一日高梁、湯郷温泉方面のマツタケがありそうな道の駅や直売所まで、ドライブがてら出かけてみました。その結果、どこの店で聞いても「今年は入荷が多い」とのことでした。しかしお値段はふつうサイズのカサが開いたものでも1本5~7千円と例年通り高嶺の花です。
大正生まれだった父の話では我が家がある岡山市近郊の里山でもマツタケはよく採れたとのことでした。私の子ども時代の岡山県のマツタケ生産量のピークは実に2,738トン(昭和32年)、昨今はわずか1.5トン前後であることを考えるとマツタケはもはや絶滅したも同然です。
ほんとうに昔はよかった。山のふもとに田んぼを持っていた伯父は秘密の発生場所を知っていて、農作業に出かけはいつもマツタケを数本カゴに入れて帰ってきました。伯父さんはなかなかのシブチンで、それを弟夫婦である私の両親やかわいい甥っ子(つまり私)には決してくれようとはしませんでした。
村の慣習で山に入ることはだれでも自由でしたので私も一度だけ、まさに生涯一度だけ村の山でマツタケを採ったことがあります。マツタケは毎年同じところに生えるというので翌年も翌々年もその場所に行きましたが、あれは夢だったのかというぐらい空前絶後の体験です。それでも秋になり山に入ればハツタケ、アミタケなど素朴なキノコがあちこちで見つかり、またブルーベリーの近縁種であるガンス(標準名ナツハゼ)の実を取っては口の中を青くさせていたものです。
人々が山で薪取りや落ち葉かきをしなくなった今という時代はもはや赤松が生育する環境ではなく、マツタケの生産量が回復することは未来永劫ないでしょう。マツタケは高いといえば確かに簡単には手が出ない食材ですが、この希少性ゆえにマツタケの存在感があるのだと思えば致し方ありません。もしマツタケがエリンギみたいに1パック150円で売られていたらどうでしょう。逆に大根にマツタケ並の希少性があればおでんの大根も燦然と輝くはずです。
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