「医療ルネサンス」という医療、介護に関する読売新聞の長期連載記事があります。内外の最新の医療技術や知識、思潮を一般の人にも分かりやすく紹介している優れた特集です。高齢の両親を在宅介護している私は介護の方法や方針で悩んだり壁にぶつかったときいつも有益なヒントをこの連載から得ています。
その医療ルネサンスが最近連続して胃ろうにスポットライトを当てています。論調を一言でいうと「胃ろうは不用」という立場のようです。食事から十分な栄養がとれなくなったとき、胃に直接穴を開けてチューブ経由で栄養食品を流し込むのが胃ろうですが、記事によると延命効果があまりない、胃から栄養剤が逆流して気管に入り肺炎を起こしやすいなどと総じて否定的です。
こうした記事の影響かどうか「胃ろうをつくらなくてよかった」という読者の声も多く寄せられています。しかし私は老いた親に胃ろうをつくるかどうか迷っている人に対して胃ろうのメリットについても十分考慮してほしいと思います。母に胃ろうをつくることを決断してよかったと信じている私の意見を述べてみます。
まず第1のメリットとして、胃ろうから栄養が十分とれるようになると体力がつきます。しばしば枯れ枝のようにやせ細っていた老人がずしりと重くなるという副作用を呈しますが、体重が増加するということは体力がつくことでもあり、風邪を引かなくなる、肺炎になりにくくなる、褥創にもかかりにくくなります。
第2に介護する家族にとって重度の認知症で寝たきりになった高齢者にご飯を食べさせる重労働が著しく軽減されます。基本的な栄養は胃に入っているわけですから、あとは情況に応じてプリンでもシャーベットでもヨーグルトでも好きなものを口から食べさせてあげればいいのです。
第3に「食事の楽しみがない人生なんて生きている意味がない」などと思うのは食欲が十分ある元気な人の固定観念に過ぎません。体が欲しているのは究極的には「栄養」であって「食べる楽しみ」ではありません。親を餓死させてはいけません。
私の母は胃ろうになってからすでに5年が経過しこの夏93歳になりました。95歳の父にとっても息子の私にとっても、認知症で寝たきりとはいえ元気に家で過ごしている母の存在が生きる原動力になっています。
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