学生時代(1968-1973)にヨーロッパの映画、文学、ポップ音楽に傾倒したのは、それらが当時の世界の最先端芸術潮流のエネルギーにあふれていたからです。それらをよりよく理解するためには翻訳や字幕に頼るのではなく直(じか)に触れたいと思い、専攻科目(心理学)そっちのけで外国語の勉強に励みました。
そのおかげでドイツやフランス、イタリアなどを旅行しているあいだにたくさんの人々と出会い、交流は今でも続いています。ひとえに言葉が理解できた故です。ところが50代の半ばを過ぎてから始めた中国語はしつこく勉強している割には身につかず、よく上海に出かける割には生の中国人がさっぱり見えません。
なぜだろうと考えてみたら、かつてフランスやイタリア映画に入れあげていたころのワクワクするような作家や作品にいまだ出会っていないせいだということに気づきました。
ところが今年3月、NHKラジオ講座の「レベルアップ中国語」という語学番組で1982年生まれの作家、韓寒(かんかん)という青年の作品「1988:ぼくはこの世界と語りたい」がテキストとして取り上げられていて、私はすっかりこの作家のとりこになりました。
日本語の翻訳小説も出版されていて早速、図書館から「上海ビート」という本を借りてきて一気に読みました。著者自身のことであろう早熟な文学少年の中学生時代から高校をドロップアウトするまでの青春グラフィティ作品ですが、とうてい15,6歳の子どもが書いた文章とは思えない成熟感があり、驚き感心しすっかりはまってしまいました。
主人公は上海の名門中学、高校の文芸部に所属し、そこでの友人たちとの葛藤やスーザンというガールフレンドとの交際と破局、学校生活の破局が感傷的になることなく描かれています。随所に引用されている古典文学の知識が教養というより完全に血肉化されて華麗な文体を生み出していることにも舌をまきます。
韓寒は作家であるほかにもブロガーとしての発言力があり、さらにカーレーサーとしても活躍しているとのことです。清朝中期(18世紀中頃)に書かれた「紅楼夢」以降、中国にはろくな小説がないと思っていた私に、現代中国の最先端文学の存在を知らしめてくれたNHKのラジオ講座には大感謝です。
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