2017年2月7日火曜日

五木寛之「新 青春の門」に期待

 文学にあまり興味がない人でも五木寛之という作家あるいは「青春の門」という作品(小説、映画、テレビドラマ)を全然知らない人は少ないのではないでしょうか。とりわけ今6070代の戦中戦後生まれ世代にとって「青春の門」は自分史とぴったり重なる、まさに疾風怒濤の青春を象徴する作品であると思います。
 今年84歳の五木寛之が「新 青春の門」第9部漂流篇を週刊現代に連載を始めたというのでわくわくしながらページをめくってみました。私がいちばん驚いたのは、1969年に第1部筑豊篇が発表されて半世紀近い歳月が流れていることだし、新たな連載は主人公伊吹信介が作家同様功成り名遂げ、今や老境を迎え人生に対する諦観でもテーマにしているのかと思ったら大違い。1961年のソ連、夏の終りのシベリアが舞台になっているではありませんか!
 五木寛之はこのところ親鸞や蓮如といった宗教や信仰の問題に深く入り込んだ作品を多く書いてきたので「青春の門」に登場した生々しい群像、地を這う人々の営み、アドベンチャーなどはもう遠い過去に捨ててしまったのかと思っていました。
 ところが、あたかも著者自身が青年時代に戻って、半世紀も前の旧ソ連に密入国し、いきなりKGBに追いつめられる……といった展開です。長い間忘れていた小説を読む喜びに再びひたれるような連載の始まりです。「作家としての最後の力をふりしぼっての今回の挑戦に、どうか青年の気分でおつきあいください」と五木は連載開始に当たって読者にメッセージをおくっています。
 私は五木寛之より一回り以上若く、生まれも貧しい筑豊の炭坑町ではなく温暖平穏な岡山育ち、両親が教師だったせいもあり、五木と直接ダブルことはないのですが、それでも早稲田大学を途中で投げ出し見知らぬ異国に飛び込んでいった共通点があります。五木は“強制収容所”と言われたソ連へ、私は“ここは地の果て”と歌われたアルジェリアへと。

 五木の魂がみずみずしく再びシベリアの荒野をさまよい始めたのに勇気をもらって私も近隣アジアへの小旅行ではなく、もう一度アルジェリア、モロッコの大地を駆けてみたい欲望にかられます。もちろん今では世界中どんなところに出かけてもホテルにはWi-Fiが完備され、本物の冒険はもうできないと思いますが。

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