7月豪雨による小田川決壊からちょうど100日目に当たる10月7日(日)、井原鉄道に乗って山陽路をたどってみました。これまでも矢掛や井原には車で出かけたことは何度もありますが、井原鉄道に乗ったのは初めてでした。3か月前の真備町の大洪水の際、町並みも田んぼもすっかり水没しているなか、井原鉄道のコンクリート製の高架橋だけがまるで希望の架け橋のように果てしのない水面に浮かんでいました。
そんな井原鉄道ですが、端から端まで一度は乗ってみたいと前から考えていたことがやっと実現したわけです。JR庭瀬駅から伯備線に乗り清音で井原鉄道に乗り換えました。1両だけの気動車が高梁川を渡りきるとすぐにテレビ報道で繰り返し目にした倉敷市真備地区に入ります。
車窓から見る風景は一見のどかな住宅街でしたが、よく見るとどの家も窓ガラスがなくがらんとしています。田んぼに目をやるとずっしり稲穂が垂れているはずの水田には雑草が茂るのみです。いかに耐え難い過酷なことがおきたことか。多くの住人が命を落とし、家を失い、地域で築いてきた生活を失い、思い出さえ失ってしまったことを映画のセットのような廃墟が物語っています。
気動車が西へ向かって進んでいきやや高台になっている地区に達するともはや洪水の影響はなく黄金に輝く水田が広がっていました。わずかな土地の高低差が運命を分けてしまうこともまた過酷な現実です。
途中、井原市の「子守唄の里高屋駅」で下車し、駅前にある華鴒大塚美術館に寄りました。日本画の金島桂華の作品を中心に珠玉のような名品を集めた美術館です。日曜日だというのに訪れる人もまばらで、ゆっくり日本画の静かな世界を堪能できました。ちなみに高屋は“ねんねこしゃっしゃりませ 寝た子のかわいさ”で有名な「中国地方の子守唄」発祥の地だそうです。
再び井原線の車中に戻り、神辺でJR福塩線に乗り換え、福山駅のレストランで牡蠣フライをあてにビールを1杯飲んで、快速サンライナーに乗って倉敷、庭瀬と帰ってきました。
平凡な日常生活、日曜日のちょっとしたプチ旅行、大きな不幸がないという幸せ……、若いころ軽蔑していたこうしたことがいかに得難い幸せであったことか、身に沁みて感じられた秋の1日でした。( 真備地区)
(はなとりおおつか美術館庭園)
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