冬の食卓を代表する野菜のひとつに大根があります。もともとは地中海沿岸地方が原産とのことですが、なぜか極東の果ての日本で大根は民衆からこよなく愛され、他国では考えられないほど大きさ、色形もさまざまな品種が育成されました。圧巻は重さ30キロにもなる桜島大根と長さ2メートル近くまで伸びる守口大根です。ともに同じ大根とは信じられないほどマニアックな野菜をよくぞ作り出したものだ、と昔の人の研究熱心さに驚かされます。
日本には上記2種ほどユニークではないにしても、全国各地に特有の固有種があり、なかでも私が毎年作っている品種に「山田ねずみ大根」という滋賀県特産の真っ白で小振りな大根があります。山田ねずみの特徴はお尻がきゅっと締まり、まるでネズミのしっぽのように主根がピンと飛び出しているからです。肉質は緻密で柔らかく、また葉っぱも棘がなくすべすべして煮食いに最適。
そして何と言っても、市販の大根が現代の少人数家庭の食生活にマッチしないどでかい代物であるのに対し、山田ねずみは独り者でも食べきるのにちょうどいい大きさなのです。
しかも、こうした特産大根は種苗商や研究施設で改良された交配種と違い、固定種と呼ばれ、自分で種を採って蒔くことができます。私は今まで大根の種を自家採取した経験はなかったのですが、この春はコロナ騒動で畑に行かないうちに山田ねずみ大根に花が咲き、5月の末には大量の種ができてしまいました。
9月になり自宅の狭い菜園で大根を作るのに必要な種はせいぜい100粒で十分、しかしせっかくここまで命を長らえた種を捨てるのはかわいそう、そしていちいち鞘から種を取りだしました。約2デシリットルもの山田ねずみ大根の種の収穫です。
とはいえ、いくら何でもこんなにも大量の種は個人ではどうしようもなく考えあぐねていたら、岡山大学で有用植物を研究されている方からいいアドバイスをいただきました。大根の種はライフクシという生薬になるそうです。消化を助け、おなかをスッキリ整えるとか。これなら大根の種が大量にあってもちゃんと命を大切にいただくことになります。
コロナがどうもすっきり収まらないままもう7月になりました。はや後半です。そして8月下旬にはまた大根の種蒔きの準備が始まります。
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