2022年9月28日水曜日

忍び寄るコロナの影

新型コロナの感染者数は減少しつつあるとはいえ数字的には相当なものです。岡山県においては8月のピーク時には1日の新規感染者数が4千人に達し、その後は減り続け最近は千人程度で推移しています。県内感染者累計を見ると27万人、死亡は4百人余りとなっています。

岡山県の総人口が190.6万人(2018年2月)であることを考慮すると実に7人に一人の県民が感染経験をしている勘定になります。しかしこの頻度に実感が伴わないのはなぜでしょう。みんなコロナに罹っても知らん顔して隣近所のうわさにならないように気を付けているのでしょう(賢明な判断です!)。

ところがごく最近、たまに幼なじみに会ったりする機会に「実は先月コロナに罹った」などという話をちょいちょい聞くことがあり、コロナの存在が現実味を帯びてきたような気がします。もっとも身の回りの例では、症状は軽く、ほとんどは無症状、症状があってもせいぜい2、3日熱が出たけど解熱剤を飲んで寝ていたら治ったという感じです。

流行初期のしばしば重篤な肺炎を引き起こし、エクモを装着され、死の淵を彷徨う恐ろしげな病気とはまるで別物になっているようです。

ところが……。先日、秋分の日に沖縄の友人が上京した際、はるばる岡山の私を訪ねてくれました。久しぶりの再会で喫茶店で話をしただけでは足りず、帰りの飛行機が出る神戸空港まで私の車で送ることにしました。友人は耳に障害があり大声でないと会話が成り立ちませんが、車の中ならいくら大声でもOK、神戸に着くまであれこれ話が弾みました。

そして週明けに思いもよらぬメールが来ました。「夜中に微熱があり、昼間はせき、くしゃみが出る」と。ちょっとあわてました。何しろ私は一度もワクチンを打っていないし、助手席の友人とは3時間も大声でしゃべっていたのですから。

友人も私もコロナに効果があると期待される寄生虫駆虫薬のイベルメクチンの効能を信じていて、すぐに飲みました。そのせいかどうか、あるいは友人の発熱は単なる風邪だったのか、症状はまもなく収まり、私も体調に変化なく過ごしていますが、忍び寄るコロナの影に一瞬たじろいだのは確かです。なお製薬会社と大学のイベルメクチンの治験結果は「有意な効果は認められず」でした。


2022年9月20日火曜日

エリザベス女王葬儀

「盆と正月が一緒に来たよう」というと例えとしてはまずいのですが、史上最強レベルの台風襲来とエリザベス女王の国葬があった9月19日はテレビ局にとってはそういう日であったに違いありません。おまけに台湾で大地震もあったのですが、このニュースなどすっかり片隅に追いやられてしまっていました。

台風の方はさいわい「経験したことがない」と言うほどの被害はなく、やはり注目されたのはエリザベス女王の荘厳かつ完璧な葬儀の様子でした。どの映像も伝統と格式、様式美にあふれてうっとり。かてて加えて、人々に愛された女王とのお別れに市民が親しく立ち会えるよう最大限の配慮がみられたことは羨ましくさえ感じられました。国葬までの約10日間、遺体は各地を巡回し、ロンドンでは24時間だれでもお通夜に参加できたことは驚きでした。

ウェストミンスター寺院での国葬の後、最終的に安置されるウィンザー城までの長い沿道でも葬列はゆっくり進み、そこでも多くの国民が花一輪、最後の献花をすることが許されていました。さすがはイギリス、伝統と格式に留まらず王室と国民の距離が近いと感じました。私も若いころロンドンに行ったことがありますが、そのとき一番驚いたのがバッキンガム宮殿のたたずまい。堀や森で隔離され、隠された皇居と異なり、「この壁のすぐ内側に女王がおられる」という圧倒的な近しさでした。実際はどうか知りませんが、とにかく王室と国民の距離が近い。日本の皇室の儀式はともすれば政界関係者と外国要人のために存在しているかのような印象が強く、「一般国民はテレビでも見ていなさい」というのは何とかならないものでしょうか。

エリザベス女王の国葬で感じたもうひとつのことは、国王の葬儀であれ庶民の葬儀であれ、キリスト教の葬式は分かりやすく、遺族はしみじみ心が癒されるセレモニーだということ。難解な仏式に比べ、分かりやすい説教のあいまにみんなで賛美歌を歌い、澄み切った気持ちで故人とお別れできるのが何よりいい。

イギリスの公共放送BBCの中継スタンスも立派でした。ひたすら儀式の進行と遺族の姿に焦点を当て、バイデン米大統領等各国要人の映像はいっさい流しませんでした。やるじゃないかジョン・ブル! 誇りと気骨がありますねえ。

グリーンモンスター、クズの脅威

最近在来線の電車や高速バスで大阪までよく出かけ、スローな旅を楽しんでいます。市街地を離れるとすぐに緑豊かな田園地帯を電車やバスは走っていくのですが、一見“緑豊か”に見える道路脇や鉄道沿線、里山の緑の正体が秋の七草のひとつクズであることに驚かされます。

クズは漢字で書くと「葛」であり、むかしなじみの葛餅、葛湯などの食品として、また風邪によく効く漢方薬、葛根湯の原料として人間の生活に役立つ存在でした。ところが今では人間の怠惰がもとでクズは最凶の迷惑植物となってしまいました。

実際、空き地に廃車を捨てたり廃屋を放置したりするとすぐにどこからともなくクズが繁殖を始め、電柱があればそれによじ登り、小川をまたいでどこまでも勢力範囲を広げます。高速道路の法面など日当たりのいい場所はクズにとって理想的な繁殖地になります。かつてアメリカは荒れた表土の保全のために日本からクズを輸入したそうですが、今ではグリーンモンスターとしてやっかいもの扱いです。

アメリカでも日本でもモンスターと化したクズの退治方法はあるのでしょうか? アメリカ軍がベトナム戦争のときに使用した枯れ葉剤のような薬品を使ったとしても効果は限定的で莫大な金もかかる一方、他の動植物や環境に与えるダメージは大きく現実的ではありません。

戦前までの日本の農村風景の美しさ、手入れのよく行き届いた山野の自然の美しさは外国人の驚嘆の的でした。たしかに安藤広重の浮世絵に描かれた農村は雑草一本生えていないうっとりする美しさ。若いころ初めてスイスを旅したとき、都市も農村もアルプスの山岳地帯もどこをとっても舐めるように美しく管理されていたことに感激したものですが、かつての日本もスイスに負けない絵になる国だったと思います。

どうやったらグリーンモンスター、クズに占拠され、松林は枯れ、足の踏み場もなくなった里山を復活させることができるのか。頭をひねっても、薪炭を捨てすべての燃料を輸入に頼り、小麦や大豆、家畜の飼料のほとんどを外国から安く輸入している現状ではお先真っ暗です。ここは奄美のハブ捕獲ではないですが、刈り取ったクズを1トン焼却炉に持ち込んだらいくらかの報奨金を支払うというのはいかがでしょう。

青春18きっぷ

 飛行機に比べ各種割引料金の設定に消極的なJRにしては珍しく長年続いているサービスに「青春18きっぷ」の存在があります。この切符に先行して誕生した「フルムーン夫婦グリーンパス」は今年を最後に廃止するとのことで、「青春18きっぷ」は全国のJR線をまたいで格安に旅行できる唯一の人気企画商品となるのではないかと思います。

この切符が登場したのは国鉄末期の1982年ということですが、実は私はこれまで一度もこれを利用したことがありません。始発から終電まで一日中鈍行列車に乗れるだけ乗って距離をかせぐというイメージが強く、旅の余裕を楽しむというより苦行のように思えたからです。

ところが歳を取ってひまになると岡山から京阪神あたりに出かけるには片道3、4時間かかる在来線の旅の方がペース的にぴったりくるのです。新幹線「のぞみ」の45分で新大阪に到着してしまう旅は速過ぎるし料金も高過ぎ。そんなところへ遅ればせながら「青春18きっぷ」という破格の存在に気づいたという次第です。今年の夏シーズンの切符の発売最終日は何と本日、8月31日まで! 利用期間は9月10日までなので、これからの10日間、小旅行を繰り返すことにしました。大阪、京都、広島、高知、松江と思い巡らすだけですでに東西南北5日分の旅程は完成です。

話は少々ずれますが、旧国鉄のネットワークの良さは新幹線の普及と分割民営化のおかげでどんどん悪くなってきました。とりわけ長距離の鈍行列車が激減。私の中学校時代には宇野発大阪行き鈍行列車があり毎日の通学に乗っていました。蒸気機関車が消滅する直前の時代です。

私は宇野線妹尾駅(現在の瀬戸大橋線)から岡山駅まで15分ほどの乗車でしたが、昭和36年当時、大阪まで闇米を運ぶ業者が通勤通学客を押しのけて、わずかな停車時間に我が物顔で多数の米袋を客車に積み込むのには閉口。その列車は夕方には闇米屋を乗せてまた岡山へ帰ってきていました。今はもう在来線で岡山・大阪を乗り換えなしで移動することはできませんが、さいわい線路はJR西日本管轄のままつながっています。北陸地方のようにかつての北陸本線が第3セクター化によってずたずたにされた地域に比べれば岡山はまだマシか、という感じです。