“げし”というのは私が住んでいる岡山市西部あたりでかつて使われていた方言だと思います。段々畑の斜面の部分のことです。我が家にも隣家との境界をなす高さ3メートルx幅10メートルほどのげしがあり、ありとあらゆる動植物が何十年と変わることなく豊穣な生を営んでいます。斜面ゆえに水はけがよく、人に踏まれないので土はいつもふかふかでミミズがいっぱい。そこで育つ植物はとても健康でのびのびしています。
長いスパンで観察しているとその豊かな土地を争って植物同士の栄枯盛衰もあります。ここ数年いちばん勢力範囲を拡大しているのはミョウガで、夏から秋口に大量のミョウガが収穫できます。ラッキョウの原種も何か所かコロニーを作っています。昔の農家の人はラッキョウを栽培するとき、このようなげしに生えている原種を掘り取ってひとつひとつにばらして畑に定植したものです。
フキ(蕗)もげしが大好きな植物です。子どものころ母から「フキをとってきて」と言われると「はーい」と返事してげしのフキを切り取って台所へ届けたものです。ところが一昨年ごろからフキがミョウガ軍団に負けたのか、気がついたら絶滅状態になっていました。母との思い出が詰まっているフキが庭先から消えてしまうのはとても残念なので、この春フキ復活作戦を試みました。
ホームセンターに行くとたしかにヤマブキの根が売られていましたが、頼りないぐらい細い根で買う気にならず、結局倉敷の従姉妹の家から株分けしてもらいました。たくさんもらったので半分は普通の畑に植え付け、残りをげしに植えました。そのとき30センチほど離れた場所にクローバーの葉ほどの大きさの植物が芽を出していました。絶滅したと思っていたフキの赤ちゃんでした。
そして6月も終わりになりげしを見ると従姉妹からもらったフキはミョウガに混じって元気いっぱいに育ち、フキの赤ちゃんも立派なフキに成長しました。我が家の100年越しのフキが絶滅寸前になりながらも生き延びることに成功したのです。ともに畑に植えたフキよりはるかにみずみずしくのびのびとしています。
元来豊かな植生を支えてきた里山のげしは、近年防災と土地の有効利用のため、どんどんコンクリートで固められ、不毛の空間になってきています。残念なことです。(“げし”の様子)
橙色のつぼみが着いているユリは正月用のユリ根を食べ損ねたものを植えました。ユリ(おそらくコオニユリ)。「谷間の百合」(バルザック)ではないですが、こういう斜面が好きな植物です。画面上部のよく育っているフキは従姉妹から分けてもらったもの。画面中央のフキが春にクローバーの葉ほどの大きさだった株。手前の株はもともとこの斜面に生えていた株ですが、30年ほど前に田んぼに移植し、そこで暮らしていたものです。今年の春、田んぼから家に持ち帰り、畑に植えたのですが生育が悪く、梅雨入りの本日(6月27日)もともとの住処であるこの“げし”に戻しました。手前やや左寄りのひも状の植物が上記の原種ラッキョウです。
2019/6/28、台風一過上京する日の朝、コオニユリ開花
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