2019年2月2日土曜日

ある夜のできごと(後編)

(前回までのあらまし)夜分、幼なじみの加代ちゃんから緊急事態の発生を思わせる電話がかかってきたので家まで見にいったのですが応答がありません。見回りに行ってくれた警察からの報告でも安否が不明なまま恐ろしい夜を過ごすことになりました。
もう深夜2時、眠れない私はカナダの従姉キャサリンに国際電話をかけました。さいわいカナダの現地時間は午前10時ごろです。「今夜こんなことがあって心配と興奮で寝られない、幼なじみが亭主から無視されていて今まさに安否が不明、だれかにしゃべらないと頭がおかしくなりそうなので聞いてくれる?」
私は加代ちゃん夫婦のことや警察に出動までしてもらったことなどをあまり得意でもない英語で小一時間もしゃべりまくりました。キャサリンは私の話をじっくり聞いてくれ、私を励まし、また日本の女性は辛抱しすぎる、そんな状態で夫婦を続ける意味はないではないか、自分とラルフ(夫)の間にはいかなる秘密もない、などと感想も述べていました。
こんな真夜中に時差の関係で電話が迷惑にならない話相手が存在することは本当にラッキーなことです。ひととおり自分の心の内や葛藤を話したら眠気も襲ってきたので電話を切り布団に入りました。
朝になって遠方に住んでいる加代ちゃんの長男さんと連絡がつき、私は昨夜のことを手短に説明しました。医者である長男さんは私の危惧に心当たりがあったのか、すぐ両親と連絡を取るとのことでした。加代ちゃんからも電話がありました。驚いたことに昨夜私に電話したことなどすっかり記憶から飛んでいるようです。ともかく、週明け早々病院でCT検査を受けることにご主人も同意されたらしく私もほっとしました。
CTの結果は脳のどこにも異常はなく、長男さんが懸念していた認知症の疑いもありません。いったいあれは何だったのか、おそらく離婚の危機にあって強度のストレスが入眠時幻覚でも引き起こしたのではなかろうかと私は素人ながら想像します。
また交番の警察官が言っていた「出動したら、警察に通報したのがあなたであることはすぐ分かる」という点についても加代ちゃんのご主人から苦情もなければ感謝の言葉もありません。「ある夜のできごと」というしかない不思議な体験でした。

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