2021年6月23日水曜日

予期せぬ出来事

   先日、遅めの昼食をとろうと近所のこじゃれた和食の店に行きました。ランチタイムだけ営業しているその店は、聞くところによると店のオーナー(ママさん)は適応障害がある息子さんの社会リハビリのために作ったそうです。採算よりも息子が活躍できる空間を確保するために開いた店だけあって、インテリアにも料理にもやさしい気遣いが随所に感じられます。とりわけ定食についてくる山菜御飯が絶品でいつもお代わりをお願いしています。

さて、時計は1時を回っていたのでお客はカウンター席にOLが2人いるだけ。私はソーシャル・ディスタンスを取って奥の4人掛けテーブル席に座りました。離れて座っていても静かな店内に食事を終えた彼女たちのテンポのいい、楽しそうなおしゃべりが響き渡ります。仕事のこと、子育てのこと、おしゃれのこと。でも今はコロナ禍のご時世、他のお客(私)もいることだしもう少し声を低くしてもらえたらなあ……。

そんなことを思いながらも私の山菜御飯の茶碗はすぐに空っぽになりました。「お代わりお願いしまーす」、私は茶碗をテーブルの通路側に置きました。ちょうどそのときOLさん達がカウンター席から立ち上がり、会計のために私のテーブル席の横を通りました。びっくりしました。何と一人のOLさんが私の空になった茶碗を取ってカウンター奥にいたママさんに手渡したのです。予期せぬ一瞬の出来事でした。

たぶん彼女はとても心根の優しい素敵な女性なのです。茶碗を無造作に持ったりしないで、両手の指をピンと外側にそらせ、親指と小指の下の膨らみ(指球)4点だけで茶碗を支える、とても器用な持ち方ではありました。

でもそのとき私は思いました。「いや、いや、いや、たとえコロナ禍のご時世でなくても、知らない人が勝手に見ず知らずの人の茶碗に触る?」。ママさんが持ってきてくれたお代わりは新しい茶碗だったのか元の茶碗によそおわれていたのか、私も気が動転していて確かめもしませんでしたが、もはやお代わりの山菜御飯は絶品ではありませんでした。

子どものころ、夕飯のときうっかり間違えて父の茶碗でご飯を食べてしまったときのあの吐き気を催す感覚、あれに近いものがあったと言ったら言い過ぎですが……。


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