シンポジウム「死刑制度について考える」に参加して
東京都狛江市で起きた強盗殺人事件はマニラの入管施設において拘束されている容疑者の日本への送致を巡って日本の警察当局とフィリピン当局の話し合いがまとまりそうな気配です。凶悪事件が日常化するなか先日、死刑制度に関するタイムリーなシンポジウムが岡山で開かれました。(岡山弁護士会主催、さん太ホール、2023年1月28日)
第1部は芥川賞作家の平野啓一郎さんによる基調講演でした。京大法学部学生時代の平野さんは死刑存置派だったけれど、作家になってヨーロッパの作家仲間と親しく交流し、また犯罪によって身内の人を殺された被害者の方々への取材を通じて、現在は死刑廃止論者になったという心の変化を文学者ならではの説得力をもって語っておられました。
第2部は平野さんの他に刑法の専門家である甲南大学教授の笹倉香奈さん、京都弁護士会の辻孝司さんらによるパネルディスカッションでした。まだ娘さんのような若々しい雰囲気を保っておられる笹倉先生は、先進国の中で死刑制度を残している日本の特異な状況を論理的に説明されたことが特に印象に残りました。ともすれば情緒的、感情論的に死刑の問題を語ろうとする我々素人の考えとは大きく違っていました。
ヨーロッパではEUへの参加条件として死刑制度を廃止していること、アメリカには死刑制度が残っているとはいえ大多数の州で廃止または停止状態にあること、日本において死刑制度が自殺の手段として使われることがあること、えん罪による死刑執行事例があること、必ずしも被害者遺族が死刑を望んでいるわけではないこと、など専門家からの説明に一々うなずいてしまいました。
また、犯罪人引渡し条約が米国と韓国との間でしかない理由として日本の死刑制度の存在が関わっているとの説明がありました。容疑者を日本に引き渡すと死刑が執行されかねないので死刑廃止国は日本と関連条約を結ばない。そういう意味では、フィリピンの例のように楽しい拘置所生活を送りながら、日本での強盗殺人を指揮するタイプの犯罪がますます増えるのではないでしょうか。
とまれ、日本の死刑制度には感情論を超えたいろんな弊害もあることを学ぶことができた充実したシンポジウムでした。
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