前号のこのコラムで、早春の嵐山・保津川下りをしたときのすばらしい体験をご紹介させていただいたばかりというのに、それからわずか10日後のこと、ようやく京都の桜も満開になった3月28日、保津川下りの観光船が転覆し、船頭さんお一人が死亡、お一人が行方不明、乗客数名がケガを負うという大惨事が発生しました。川下りの楽しかった余韻がまだ残っている私にはショッキングなニュースでした。
船を操る船頭さんは総勢で200名ぐらいいらっしゃるとお聞きしたのですが、亡くなられた方は51歳のベテランの船頭さんで、行方不明の方はまだ40歳の働き盛りということです。もしやあの日、私やカナダから観光に来ていた従姉妹たちを乗せてくれた船頭さんたちではなかったかととても心配です。もちろんどの船頭さんであってもこんな事故で命を失うことなど絶対あってはいけないことですが。
保津川上流の亀岡から嵐山・渡月橋前までの約16キロメートルもの渓谷を2時間前後の時間をかけて、船頭さんたちは船をあやつります。迫りくる巨大な岩を竹の棒で一瞬にして遠ざけ、流れが緩くなると渾身の力をこめて竹竿を川底に押し当てながら船を前へと進めます。
その一方、乗客に対しては、川下りの要点や歴史、まわりの自然について、あるいはいかに体力が必要な仕事であるか、新人を採用してもあまりの激務に翌日にはもう辞めてしまう子が続出する話などユーモアを交えながら語りかけてくれます。
保津川は渓谷に沿って何度も大きく湾曲しながら流れていきます。そういう場所では淵の深さが15メートルもあるという説明もされていました。比較的浅い川なのに今もひとりの船頭さんが行方不明であるというのはそういう淵に沈んでしまった可能性もあるような気がします。ご家族の気持ちを考えるといたたまれない気持ちでいっぱいです。
転覆による死亡事故をきっかけに当局の規制が強まり、この優雅でスリリングな遊びが我々から遠い存在にならなければいいが、と危惧します。客の命が全員助かったことが奇跡のように思われる無防備な遊びであることも事実ですが、それはどんなスポーツでも同じこと。100年以上続く京の風物詩は後世まで守り伝えてほしい、そのように思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿