きょうの親父の昼飯は何にしようかと考えた結果、サンマの塩焼きとアサリの味噌汁にすることにしました。大根おろし用の大根、ユズやネギは畑から取ってくればいいので安上がり。
つまらなそうな顔をして昼飯を食べる親父。「食欲がなくなったらお仕舞いよ!」などとイヤミをいいつつ半分以上残した昼飯をかたづけ始めました。そしてキッチンカウンターに放置したままになっていたアサリが入っていたプラスチック製のパックを捨てようとしたとき、きょうの不幸が始まりました。
何とアサリが1個、パックの隅っこに残っていたのです。アサリも20個ぐらいの集団だと食品としてナベに放り込むことができるのに、1個だけ残っているのを見たらとたんに絶滅危惧種の生物、いや別に絶滅しかかっている様子はないけど、とにかく生き物という存在感が大きい。いったんは電子レンジに入れたもののスイッチが押せません。かくて、このアサリは瀬戸内海に返すことにしました。
夜9時に兄が母の介護の交代に来たので、それからアサリを1つ助手席に載せて海を目指して出発。車のヒーターを入れるのもためらわれ、寒さをがまんしながら児島経由で王子が岳の下の海岸を目指しました。夜中の道路は不気味です。行けども行けども「児島方面」という標識が逃げていき永久にたどり着けないのではという感じさえしました。
でも国道430号線に入り、海を近くに感じ始めたらまもなく国民宿舎「王子が岳」前の駐車スペースに到着しました。国道を横切り波打ち際まで暗闇の階段を降りてしばしxx(体が冷えたのです)。目が闇に慣れてきたら階段の端と砂浜の間が岩場になっていることが分かりました。波がその辺りまできているので気をつけないといけないなと思いつつ砂の上に立ったら想定外のことが、、、、何と砂がズズッと沈んでいくではありませんか。あわてて岩に乗ろうとしたら足が岩の上でぬるっと滑り90キロの巨体はスローモーションで波打ち際に転倒。左足の膝小僧を思い切り岩にたたきつけ激痛が走ると同時にジーンズ越しに海水が浸水してきて意識が薄れていきました。
ふと気がつくと、趣味のいいスカンジナビア製のモダーン・ファーニチャーが置いてある高級ホテルのような部屋に。ううーん!? 竜宮城は確か中国風のインテリアだから違うような気がする。21世紀の竜宮城はやはりスウェーデン製の家具なのか、などとバカなことを考えているうちに、お決まりの美女・・・ではなく、顔はいまいち、しかしスタイル抜群の大女房が。
「私はあなたに助けていただいた蛤です」
「それは何かの間違いでしょう。私が海に返したのはアサリでした」
「それはこうなのです。アサリは私の仮の仮の姿、本当は蛤でした」
「えっ?蛤女房の蛤さんですか?」
「まあ、そんなところです」
「???あなたはいったいあなたなのですか?それとも蛤女房?ではなくアサリ嬢?」
などと、コンニャク問答をしているうちに波がザア、ザア寄せては引いていく音が大きくなって夜の海辺にぶっ倒れている自分に気がついたのです。
立ち上がれなかったら携帯で110番しよう、と思ったのですが携帯は車の中に置いてきたらしくポケットにはありませんでした。正解でした。携帯が海水に浸からずに済んだし、もしパトカーを呼んだら、「こんな夜中に渋川の海に何の用があったのか?」と尋問されることは確実。「スーパーで買ったアサリを海に返しにきました」などと言おうものなら、外科病院ではなく精神病院へ連行されていたでしょう。
両手の指も岩で激しく擦って強い痛みがあったものの出血はしてなさそう、どこかに行ったサンダルの片割れを探しだして、浜辺から上がり砂を払い落として駐車場へ。帰りは30号線を通って帰宅しました。とんだナイトメア・イブニングでした。(一部フィクションあり)