2012年5月17日木曜日

岡山県庁のミュージックサイレン


 ○○誌前編集長の○○氏は職を辞して以来、郷土史に名を残した著名人の伝記を精力的に上梓されています。最近偶然書店で氏の最新作である「三木行治の世界:桃太郎知事の奮闘記」(岡山文庫、日本文教出版社、2012)を目にしました。

 同著には私が知らなかった三木知事(知事在職1951-1964)に関するさまざまなエピソードが網羅されていて興味が尽きません。例えば、資料として添えられている三木さんのパスポートには“身長1.57メートル”と記載されています。恰幅のいい大男のイメージが記憶に残っていますが、実は小柄だったのですね。

 さらに同書を読み進んでいくと、今も正午と午後5時に県庁の屋上から美しいメロディを鳴り響かせているミュージックサイレンに関する詳細な記述がありうれしくなりました。三木知事が現庁舎ができるとき「ひとつだけわがままを言わせてくれ」とこだわって最高級の機器を設置したという逸話です。

 私の中学生時代、正午にはシューベルトの「菩提樹」を、そして夕方学校帰りにはドボルザークの「家路」を聞くのがとても楽しみでした。○○さんの本によると昔はサイレンの音をさえぎる高層建築がほとんどなかったので県庁から5キロメートル離れたところでも聞こえたと書かれていますが、私が住んでいた妹尾は10キロ近く離れているのに夜9時、風向きがいい日には「子守歌」がはるか遠く聞こえていました。

大学生になって岡山を離れ、53歳のとき親の介護のために仕事を辞めて再びふるさとに帰ってきた私を何よりも暖かく迎えてくれたのが県庁の「菩提樹」と「家路」でした。思春期のころの胸がうずうずする感覚がよみがえってきます。「早春」、「あこがれ」、「友情」、「初恋」、「旅への誘い」、「郷愁」……。

青春は過ぎ去り老いを感じ始めた今、なつかしいサイレンの音色を私は特等席で聞いています。県庁の真向かいにある県立図書館です。まもなく正午というとき決まって正面玄関から外に飛び出し、図書館の太い柱にもたれながら至福のメロディにしばし身と心をゆだねます。

泉に沿いて茂る菩提樹……

ここに幸あり、ここに幸あり。

プァー(正午の瞬間)

桃太郎知事からのプレゼントは世代を超越した県民の宝物です。

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