2022年3月9日水曜日

「人生案内」

 今や激変する世界情勢に関するニュースや論壇、経済統計などは新聞よりもテレビ、ネット、専門サイトの方がより効率的、双方向的に情報を得られます。新聞をゆっくり読むのは喫茶店でくつろぐときぐらいのもの。そんなとき私が必ず目を通すのは「人生案内」(読売)などの人生相談。これでもかと毎日毎日人間の苦悩が綴られています。

 たしかロシアの文豪トルストイの言葉だったと思いますが、「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸なものである」という名言があります。大正3年に連載が始まったという「人生案内」は100年を超す長寿コラムとのこと。不倫、夫婦の間の秘密を告白すべきか、親への批判、パラサイト化した子どもへの絶望感、果ては亭主のちょっとした下品な仕草にはがまんできないから離婚すべきか、などと同音異曲の相談が途切れることはありません。

 そんな相談事例の中でも最近とりわけ心を打ったのがあったのでここに簡単にご紹介します。

60代男性、子どもは独立、妻との平和で豊かな日々。世間的には満ち足りた幸福な人生。しかし私には思い出すだけでも怒りに震え出すような悔しい記憶がある。中高一貫教育の名門校(兵庫県といえばあの高校か)で不登校気味になった自分に吐きかけられた教師らの侮蔑的な言葉や態度!「この野郎……」

今は会社社長をしていて収入も平均以上、ボランティアなど社会生活も立派にこなしている。でももともと優秀校だったので同級生たちを見回しても自分の立身出世など自慢にもならない、そこがまた悔しい……心の持ちようを教えてください、という悲痛な内容です。

初老の男の女々しさをここまで率直かつみごとに語った相談も珍しいと思いました。そんな感動的なお悩み相談なのに、大学教授の回答は正直ピンぼけで、「そんな苦しい経験があったからこそ今の幸せがある」と思え云々と。そんな説教を聞いてこの60男の怒り、悔しさが慰謝されるわけがない。なぜ日本人はこの先生のようにものごとを精神論で片づけたがり丸く収めようとするのか。私なら「今からでも五寸釘と藁人形を用意し丑の刻参りをすべき。怒りを忘れたころに呪いは必ず届くもの」とアドバイスしますよ。


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