2012年7月5日木曜日

神の粒子

   7月7日の七夕を祝うように宇宙に関するビッグニュースが飛び込んできました。「神の粒子」と呼ばれるヒッグス粒子が予言通りスイスにある巨大加速器による実験で実在がほぼ確認できたというものです。このことはそもそもの宇宙の起源はビッグバンであることを証明したのと同じことだと思います。

ところで世界の多くの宗教が呈示する宇宙観もビッグバン説とほとんど違いません。旧約聖書の冒頭に「神は光あれと言った。すると光があった」と記されています。そこでは天地創造のすぐあとに人間が創られていますが人類生誕までの137億年をはしょっただけのことだと思います。

しかし、考えてみればニュートン以降、アインシュタインの相対論から最新の量子力学や超弦理論まで、古い理論の矛盾を解決しながら明らかにしてきた科学的世界観と宗教的直観によるイメージはそんなに大きく異なるものではないようです。いずれも何もないvoid、虚無……のところから何かが揺らいで、あるいは何者かの息吹によって宇宙が始まったという共通のイメージです。

宇宙の始まりがどうして起きたのか、どんな状態だったのかについては宇宙観測や素粒子物理学の成果、あるいは宗教的直観のほかにもう一つの驚くべきアプローチがありました。それはアメリカの脳科学者ジョン・C・リリィ(1915-2001)による人間の意識の探求です。

リリィは人間の脳には人類誕生以来の記憶が残っているという仮説を立て、それをビジョン(視覚)として把握しようとしました。具体的には外部の刺激をいっさい遮断したタンクの中に特殊な水を入れて浮かび、しかも致死量に近い幻覚剤のLSDを摂取して意識の底にあるものを探る危険な実験でした。

幻覚の中でリリィはどんどん過去に戻っていき、地球の誕生はおろか宇宙の始まりであるビッグバンまで目撃します。そこで神に遭遇したのかあるいは自分が神そのものだと思ったのか彼の著作を精読してみなければなりません。(ケン・ラッセルの映画「アルタード・ステーツ」に実験の様子が描かれています)

人間は広大無辺の宇宙から素粒子の粒ひとつまで目に見えないものをまるで見てきたかのように解明していく動物ですね。想像力のスピードは光速をはるかに超えています。

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