2022年11月2日水曜日

大木になりすぎた庭の肥後椿

昔々、1960年代ごろ今の天満屋岡山店の近くに甲本種苗という種物屋がありました。天満屋とは県庁通りをはさんで向かい側にあった小さな店です。当時岡山にはほかに大きな種苗店がなく、もちろん現代のようにネット通販で何でも注文できるような時代ではなく、草花や果樹を育てるのが好きだった私にとっては魅力的な種物屋さんでした。

 たしか高校生のころだと記憶していますが、ある日学校の帰りに甲本種苗の店先に高さが5センチほど、茎の太さはマッチ棒ぐらいしかないとても小さな肥後椿の苗が売られているのを見つけました。肥後椿は直径が10センチもある大輪の花をつけるらしく、こんなちっぽけな弱々しい苗木にいつかそんな巨大な花が咲いたらどんなに見事なことだろうと夢がかき立てられます。

 大学生になって家を離れ、大阪で就職、それ以来実家に帰省するたびに肥後椿の生育ぶりを見てきました。大きくなるのが何と早いことか! 家の庭が気にいったのか、周りの先輩の木々に負けることなく、年々背丈が伸び横にも枝を広げ、春先には巨大な花を咲かせるようになりました。そして花が終わるとボテボテ豪快に地面に落ちて庭は深紅の絨毯を敷き詰めたようになります。

 ところで、椿は忌木で庭に植えることを嫌う地方が各地にあるといいます。花がボトリと落ちるところが打ち首を連想させるからとか、病人が絶えないからとか、家運が傾くからなどと言われているようです。ところが我が家の椿は大した悪さをすることもなく今や樹齢60年を超え、ますます元気いっぱい。とはいえ、ここ数年この大木にも困ったものだと感じるようになってきました。

 広くもない庭のしかも真南に年中葉がある常緑樹があると庭だけでなく家の中まで暗くなります。特にこれからのシーズン、太陽は低くなり座敷まで太陽の暖かい日差しが届かなくなるのです。「だから病人も出るのか、なるほど」と昔の人の知恵には感心させられます。そこで……。

 秋晴れの今日、梯子をかけてかなり大胆な剪定をしました。家の中が少し明るさを取り戻し、久しぶりに傍若無人に存在を主張する肥後椿にブレーキをかけた気分です。ただ山のように出た太枝や葉っぱをどうやって片づければいいのか、庭の植物との戦いはきりがありません。

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