2007年11月23日金曜日

はたきがけ(2007年1.29号)

 ”はたき”と聞いて何のこと?とお思いの方も多いと思います。昔の掃除道具の定番アイテム。今では古本屋のオヤジが立ち読み客を追い払うときぐらいしか出番がありません。

 母が退院し半年ぶりの自宅での療養生活が始まりました。病院ではもうろうとしていたのに60年間見つめてきた6畳間の天井をながめて母はかすかに微笑んだような気がしました。

 私がまだ幼児だったころ、風呂上がりの私をひざの上に乗せて寝間着を着せてくれた母の記憶が鮮明に残っている部屋。母は教師だったので朝はとても忙しかったはずなのに、真冬でも部屋を開け放しガラス障子の桟をはたきではたいていました。

 寝坊の私はせっかくの部屋の温もりをいっぺんに追い出してまでなぜ毎日パタパタ無駄なことをするのか、いつも母に抗議。でも決して聞き入れてはもらえませんでした。 50年が過ぎた今また母とこの部屋で過ごすことになり、気管切開している母の健康のためにも掃除には気合いが入ります。ただし閉め切った部屋ではたきを使うとホコリを舞いたたせるだけなので、障子の桟はちまちまと雑巾で拭っていきます。

 胃瘻を介して”朝食”を食べてもらい、痰を取ったり、おしめを交換、部屋の掃除が終わるころにはまた昼食の用意と、あっという間に時間が過ぎていきます。

 でもそんな作業が大変かというとそうでもありません。主客は逆転したものの何だか子供のころに帰ったような”あまーい”懐かしさでいっぱい。

 母はなぜ毎朝パタパタやっていたのか?愛されていたからです。 

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